ボーダレス・アートミュージアムNO-MAで開催されている『Co-LAB#1,2,3』は、2人の作家によるコラボ展を3期に分けて開催された展覧会です。
3期のテーマはそれぞれ「#1 Symbol(象徴)」、「#2 Drawing(描くこと)」、「#3 Image(像)」と企画されており、第3期の「#3 Image(像)」へ出向きました。
造形が好きな事もありましたが、NO-MA美術館のHPを見ていて気になった桝本佳子さんの作品を見たかったことが「#3 Image(像)」を選んだ動機です。
NO-MA美術館は、ボーダレス・アートミュージアムを名乗るだけあって、紹介される作家はアールブリュットの領域にとどまらず、あくまでもボーダレスに企画されます。
そこで紹介される作家の方々は、多種多様で個性豊かな作品を造られる方が揃い、今回の二人展でも全く違った表現方法の作家さんの作品を一つのテーマの下で味わえました。
今回の二人展は、粘土作品と平面作品の大井康弘さんと、伝統的な陶磁器の技術で斬新な器を造形される桝本佳子の2人が紹介され、度肝を抜かれる作品が多かったと思います。
会場へ入った瞬間に圧倒されるのは、焼き物の壺から飛び出し、あるいは顔を突っ込んでいるマガンの大きな壺でした。
おまけに会場には数羽のマガン(焼き物)が飛んでいる。
1階のフロアーの空間は雁行のインスタレーションとなっており、2面の壁にはコラージュされた平面図。
最初に、焼き物の迫力というか、ありえない意外性に目が行ってしまうのは誰もが同じだと思います。
「雁行/壷」 桝本佳子 2012
桝本さんは、京都市立芸術大学大学院修士課程陶磁器専攻修了後、フィラデルフィア芸術大学のゲストアーティスト、神戸芸術工科大学 陶芸コース実習助手。
2013年には、英国ヴィクトリア&アルバート博物館のレジデンスプログラムアーティストをされ、現在は滋賀県信楽にて制作活動をされておられるそうです。
個展やグループ展も定期的に開催されているようであり、いくつかの賞を受賞されているようです。
「雁行/壷」 桝本佳子 2012
専門的なキャリアを積んでおられる方ですから、壷だけを見ても焼き物としてプロの陶芸家の作品となっており、精巧に造られたマガンも見事なものです。
その2つが合体してしまうのですから、見ている方はあっけにとられるような作品としか言い様がなく、その発想と技巧に感心するほかありません。
面白いのは作品群が、単なるオブジェにはなっておらず、あくまでも壺としての機能を備えていることではないでしょうか。
「雁行/壷」 桝本佳子 2012
NO-MA美術館で配布されている作者紹介文によると、桝本さん自身の政策テーマは「用途のない、飾られるためだけに作られた器」だと述べられているといいます。
壷や絵皿は、本来は花を生けたり料理を盛りつけたりするものでありながら、鑑賞するための美術品という側面がありますが、作品群は本来の機能から離れて装飾品の要素が色濃くなっています。
桝本さんと同い年の大井康弘さんの作品は、コラージュされた平面作品とヒンドゥー教の神・ガネーシャや動物を模した粘土作品となっています。
平面作品の絵のモチーフとなるのは“骸骨”“人体”“動物”などが多く、着想源としてはマンガやアニメからではないかと考えられているといいます。
また、幼少期をアメリカで過ごした大井さんが、当時目にしたキャラクターが表現の素材になっているのでは?ともキャプションに書かれてありました。
「骸骨」 大井康弘
骸骨をモチーフにしたコラージュ作品は、大井さんがプライベートな時間に作りためている作品シリーズだといいます。
大井さんは、これらの作品をトートバッグにぱんぱんに詰めてどこに行くにも持ち歩いているといいますから、作品は自身の体の一部か、分身のようなものなのかもしれません。
「骸骨」 大井康弘
日めくりカレンダーの裏にコラージュされた作品は、「からだ」という作品。
からだがバラバラとなっているが、作品には正円を中心にしたものが見られ、なぜかパンツにもこだわりがあるようです。
また、大井さんは自作のイラストやコラージュをコピー機にかけて、複写した紙の方に価値を感じているのだという。
「からだ」 大井康弘
NO-MA美術館には1階および2階の展示室と、中庭・蔵での展示があり、古民家と作品が一体化しています。
中庭には大井さんの造形作品が配置されてあり、それらは“ゾウ・へび・たこ・たつ・うし・さる”などの動物の粘土作品です。
9点の作品が中庭に展示されていましたが、「たこ」を題材にした作品は桝本さんも作られており、2人の作品の対比が面白い。
「たこ」 大井康弘
「蔵」の中には2つの壺につながるように造形された桝本さんの「竹田城址」が置かれてありました。
加湿器の蒸気は、雲海の広がる「天空の城・竹田城址」をジオラマのように演出されているのでしょう。
桝本さんの作品は生き物が中心かと思いきや、歴史的な建築・建造物をモチーフにされることも多いようです。
「竹田城址/壷」 桝本佳子 2015
2階の床の間に置かれていた「カジキ釣り」は、花瓶と融合した漁船から延ばされた竿が、もう一つの壺と融合したカジキを釣り上げている圧巻の作品です。
作品は、意外性とアイデアの面白さに驚くと共に、確かな技巧と陶磁器作家としての力量の凄さに感嘆してしまいます。
「カジキ釣り/壷」 桝本佳子 2014
「アリゲーターガー」という作品は、本来は鉢のはずが、アリゲーターガーが完全に主題となっています。
鉢とアリゲーターガーのような異質な物どうしの出会いは、まず驚き、次にある種の笑いやユーモアのようなものが感じられます。
「アリゲーターガー/鉢」 桝本佳子 2020
次の「毛蟹」も、毛蟹の技巧の凄さと赤絵壺の見事さを感じられる作品です。
近代の陶芸の世界に宮川香山さんの「高浮彫」という技法があるようで、宮川香山の作品にも花瓶と蟹をモチーフにした作品があります。
桝本さんの作品の場合は、より分かりやすいゆえのインパクトがあり、どこか愛嬌のある作品が多いように感じます。
「毛蟹/赤絵壺」 桝本佳子 2017
面白いというか感心したのは「猿」という作品で、前から見ると餌をねだる子猿と何か食べている母猿の壷ですが、後ろから見ると山水画の壺となっていること。
改めてこの方の陶磁器作家としての実力の高さが伺えます。
「壷/猿」 桝本佳子 2008
対する大井さんの粘土作品は、自身の分身を作り出すかの如く、自分の体毛や木の実などをティッシュ・新聞紙・ガムテープで作った芯材の上に粘土を重ねていくといいます。
粘土を重ねて覆うことで、元が何だったのか分からなくなる作品があるといい、それが逆に見る者にとっては、その独特の感性に驚かされることになります。
「ガネーシャ」 大井康弘
同じガネーシャと名が付いていても、会場に展示されている3種類のガネーシャは姿が大きく異なります。
もっともガネーシャ神らしいのは下の像になり、象のような顔・長い鼻・四臂があり、股間からは蛇が顔を出している。
蛇は想像の産物か、そんな絵や像を観られたのかは不明ですが、何かガネーシャ神に心を動かされるものがあったのかもしれません。
尚、ガネーシャ神は、あらゆる障害を除去して成功に導く神として信仰され、日本では「大聖歓喜天」として祀られる天部とされます。
「ガネーシャ」 大井康弘
最後に桝本佳子さんのもはや実用性を失って装飾品となっている皿を2枚。
「竹燕/皿」は、絵皿に描かれた燕と、皿から飛び出した燕が見つめあって求愛でもしているかのよう。
竹も皿と一体化していて、実に風情のある作品だと思います。
「竹燕/皿」 桝本佳子 2008
「朝顔/皿」も、日よけのすだれのこちら側に咲く朝顔の絵と、立体の朝顔が調和して涼し気な風景を眺めているかのような気持ちになります。
「朝顔/皿」 桝本佳子 2020
大井康弘さんの作品は同じNO-MA美術館で開催された「HELLO 開眼」以来で、桝本佳子さんはこの展覧会で初めて知った作家さんです。
2人の誰にも真似のできない作品に堪能して美術館を後にしますが、NO-MA美術館はいつ訪れても刺戟的な美術館だと思います。
例年、NO-MA美術館の秋の展覧会は企画盛沢山の展覧会が開催されていますので、次回の展覧会が楽しみになります。
3期のテーマはそれぞれ「#1 Symbol(象徴)」、「#2 Drawing(描くこと)」、「#3 Image(像)」と企画されており、第3期の「#3 Image(像)」へ出向きました。
造形が好きな事もありましたが、NO-MA美術館のHPを見ていて気になった桝本佳子さんの作品を見たかったことが「#3 Image(像)」を選んだ動機です。
NO-MA美術館は、ボーダレス・アートミュージアムを名乗るだけあって、紹介される作家はアールブリュットの領域にとどまらず、あくまでもボーダレスに企画されます。
そこで紹介される作家の方々は、多種多様で個性豊かな作品を造られる方が揃い、今回の二人展でも全く違った表現方法の作家さんの作品を一つのテーマの下で味わえました。
今回の二人展は、粘土作品と平面作品の大井康弘さんと、伝統的な陶磁器の技術で斬新な器を造形される桝本佳子の2人が紹介され、度肝を抜かれる作品が多かったと思います。
会場へ入った瞬間に圧倒されるのは、焼き物の壺から飛び出し、あるいは顔を突っ込んでいるマガンの大きな壺でした。
おまけに会場には数羽のマガン(焼き物)が飛んでいる。
1階のフロアーの空間は雁行のインスタレーションとなっており、2面の壁にはコラージュされた平面図。
最初に、焼き物の迫力というか、ありえない意外性に目が行ってしまうのは誰もが同じだと思います。
「雁行/壷」 桝本佳子 2012
桝本さんは、京都市立芸術大学大学院修士課程陶磁器専攻修了後、フィラデルフィア芸術大学のゲストアーティスト、神戸芸術工科大学 陶芸コース実習助手。
2013年には、英国ヴィクトリア&アルバート博物館のレジデンスプログラムアーティストをされ、現在は滋賀県信楽にて制作活動をされておられるそうです。
個展やグループ展も定期的に開催されているようであり、いくつかの賞を受賞されているようです。
「雁行/壷」 桝本佳子 2012
専門的なキャリアを積んでおられる方ですから、壷だけを見ても焼き物としてプロの陶芸家の作品となっており、精巧に造られたマガンも見事なものです。
その2つが合体してしまうのですから、見ている方はあっけにとられるような作品としか言い様がなく、その発想と技巧に感心するほかありません。
面白いのは作品群が、単なるオブジェにはなっておらず、あくまでも壺としての機能を備えていることではないでしょうか。
「雁行/壷」 桝本佳子 2012
NO-MA美術館で配布されている作者紹介文によると、桝本さん自身の政策テーマは「用途のない、飾られるためだけに作られた器」だと述べられているといいます。
壷や絵皿は、本来は花を生けたり料理を盛りつけたりするものでありながら、鑑賞するための美術品という側面がありますが、作品群は本来の機能から離れて装飾品の要素が色濃くなっています。
桝本さんと同い年の大井康弘さんの作品は、コラージュされた平面作品とヒンドゥー教の神・ガネーシャや動物を模した粘土作品となっています。
平面作品の絵のモチーフとなるのは“骸骨”“人体”“動物”などが多く、着想源としてはマンガやアニメからではないかと考えられているといいます。
また、幼少期をアメリカで過ごした大井さんが、当時目にしたキャラクターが表現の素材になっているのでは?ともキャプションに書かれてありました。
「骸骨」 大井康弘
骸骨をモチーフにしたコラージュ作品は、大井さんがプライベートな時間に作りためている作品シリーズだといいます。
大井さんは、これらの作品をトートバッグにぱんぱんに詰めてどこに行くにも持ち歩いているといいますから、作品は自身の体の一部か、分身のようなものなのかもしれません。
「骸骨」 大井康弘
日めくりカレンダーの裏にコラージュされた作品は、「からだ」という作品。
からだがバラバラとなっているが、作品には正円を中心にしたものが見られ、なぜかパンツにもこだわりがあるようです。
また、大井さんは自作のイラストやコラージュをコピー機にかけて、複写した紙の方に価値を感じているのだという。
「からだ」 大井康弘
NO-MA美術館には1階および2階の展示室と、中庭・蔵での展示があり、古民家と作品が一体化しています。
中庭には大井さんの造形作品が配置されてあり、それらは“ゾウ・へび・たこ・たつ・うし・さる”などの動物の粘土作品です。
9点の作品が中庭に展示されていましたが、「たこ」を題材にした作品は桝本さんも作られており、2人の作品の対比が面白い。
「たこ」 大井康弘
「蔵」の中には2つの壺につながるように造形された桝本さんの「竹田城址」が置かれてありました。
加湿器の蒸気は、雲海の広がる「天空の城・竹田城址」をジオラマのように演出されているのでしょう。
桝本さんの作品は生き物が中心かと思いきや、歴史的な建築・建造物をモチーフにされることも多いようです。
「竹田城址/壷」 桝本佳子 2015
2階の床の間に置かれていた「カジキ釣り」は、花瓶と融合した漁船から延ばされた竿が、もう一つの壺と融合したカジキを釣り上げている圧巻の作品です。
作品は、意外性とアイデアの面白さに驚くと共に、確かな技巧と陶磁器作家としての力量の凄さに感嘆してしまいます。
「カジキ釣り/壷」 桝本佳子 2014
「アリゲーターガー」という作品は、本来は鉢のはずが、アリゲーターガーが完全に主題となっています。
鉢とアリゲーターガーのような異質な物どうしの出会いは、まず驚き、次にある種の笑いやユーモアのようなものが感じられます。
「アリゲーターガー/鉢」 桝本佳子 2020
次の「毛蟹」も、毛蟹の技巧の凄さと赤絵壺の見事さを感じられる作品です。
近代の陶芸の世界に宮川香山さんの「高浮彫」という技法があるようで、宮川香山の作品にも花瓶と蟹をモチーフにした作品があります。
桝本さんの作品の場合は、より分かりやすいゆえのインパクトがあり、どこか愛嬌のある作品が多いように感じます。
「毛蟹/赤絵壺」 桝本佳子 2017
面白いというか感心したのは「猿」という作品で、前から見ると餌をねだる子猿と何か食べている母猿の壷ですが、後ろから見ると山水画の壺となっていること。
改めてこの方の陶磁器作家としての実力の高さが伺えます。
「壷/猿」 桝本佳子 2008
対する大井さんの粘土作品は、自身の分身を作り出すかの如く、自分の体毛や木の実などをティッシュ・新聞紙・ガムテープで作った芯材の上に粘土を重ねていくといいます。
粘土を重ねて覆うことで、元が何だったのか分からなくなる作品があるといい、それが逆に見る者にとっては、その独特の感性に驚かされることになります。
「ガネーシャ」 大井康弘
同じガネーシャと名が付いていても、会場に展示されている3種類のガネーシャは姿が大きく異なります。
もっともガネーシャ神らしいのは下の像になり、象のような顔・長い鼻・四臂があり、股間からは蛇が顔を出している。
蛇は想像の産物か、そんな絵や像を観られたのかは不明ですが、何かガネーシャ神に心を動かされるものがあったのかもしれません。
尚、ガネーシャ神は、あらゆる障害を除去して成功に導く神として信仰され、日本では「大聖歓喜天」として祀られる天部とされます。
「ガネーシャ」 大井康弘
最後に桝本佳子さんのもはや実用性を失って装飾品となっている皿を2枚。
「竹燕/皿」は、絵皿に描かれた燕と、皿から飛び出した燕が見つめあって求愛でもしているかのよう。
竹も皿と一体化していて、実に風情のある作品だと思います。
「竹燕/皿」 桝本佳子 2008
「朝顔/皿」も、日よけのすだれのこちら側に咲く朝顔の絵と、立体の朝顔が調和して涼し気な風景を眺めているかのような気持ちになります。
「朝顔/皿」 桝本佳子 2020
大井康弘さんの作品は同じNO-MA美術館で開催された「HELLO 開眼」以来で、桝本佳子さんはこの展覧会で初めて知った作家さんです。
2人の誰にも真似のできない作品に堪能して美術館を後にしますが、NO-MA美術館はいつ訪れても刺戟的な美術館だと思います。
例年、NO-MA美術館の秋の展覧会は企画盛沢山の展覧会が開催されていますので、次回の展覧会が楽しみになります。