揉み出し。

今日は、ファイターズのデーゲーム聞きながら、ファミリー用のボンゴの整備。
カメラ仕事場に忘れたのと汚れ仕事だったので、写真は撮ってない。
長文勝負になるから覚悟しな(笑)。

かーちゃんから「最近ボンゴのブレーキ、踏み代が大きくて、ちょっと怖い」とレポートがあり、見てみることにした。
乗ってみると確かにそうみたいだ。
ボンゴは全輪ディスクブレーキなので、踏み代が大きくなる原因は、ひと言で言えば「どこかのキャリパピストンの戻りすぎ」が多い。

ディスクブレーキの場合、摩擦材であるパッドは、ブレーキかけてなくても常時軽くディスクに接触している。
ディスクブレーキは放熱がいいので、軽い接触程度なら温度が上がることもないのだ。
ブレーキをかければ、接触しているパッドが強くディスクに押し付けられるだけなので、ピストンはわずかしか動かないのだ。
その動きは、通常はピストンシールのゴムの変形の範囲程度しかない。
だからディスクブレーキは、軽く踏み初めから効いてくる。
ドラムブレーキでは放熱に不利なため、ブレーキをかけていないときは摩擦材のシューとドラムの間に適当な隙間が必要になる。つまり、シューとドラムは通常接触していない。
ブレーキかければ、踏み初めにこの隙間の分だけ、全く効かない範囲がある。
フロントにドラムブレーキのクルマはもはや少数だが、ディスク慣れしてるとこの効きはじめの差に戸惑い「ドラムブレーキは効かない」などと思ってしまうやつもいることだろう。
しかし、よほどの高速や長時間の連続使用(レースのように短い間隔でフルに使ったりも含む)でもなければ、きちんと整備されたドラムブレーキは、ディスクブレーキと同様に効く。
つまり、普通に走る分にはドラムでも全く不安なく停まってくれるのだ。
市販車の通常走行レベルで「ドラムだから効かない」なんて抜かすやつは、恥を晒す前にまずきちんと整備したほうがいい。
ドラムブレーキは、ディスクブレーキよりもこまめに整備してやる必要があるのだ。整備するにもホイールを外したりしなきゃなんなかったり、いい加減にやれば片効きしたりとかで実際面倒だから、熱的に不利で高速化に対応しきれないからだけでなく、淘汰されてきたのもうなずける。

閑話休題。
キャリパピストンが何らかの原因で戻りすぎれば、ピストンのストロークが増えた分、踏み代が大きくなる。
原因としては、
・ディスクの表面不整
・ピストンやピストンシールの固着や拘束
・キャリパスライドピンの固着や拘束
・それらによるパッドの斜め減りの進行
などが考えられる。
クルマでもバイクでも、割に多いのがピストンやキャリパの固着だ。

クルマのブレーキはフェールセーフのために4輪を2系統に分けている。
ウチのボンゴやジープの場合は前1系統後1系統、サンバーは対角になる前後輪で1系統ずつ、といった具合だ。
ボンゴみたいに前後が分けられている場合、ドラムと違って片効きしにくいのがディスクの取り柄だ。理由は各位考えてみよう。
俺もジープの片効きにはてこずらされたもね。
ウチのボンゴ、現状で片効きはない。乾燥舗装路でタイヤ鳴かすような機会はなかったので、急制動はなんともいえないが、普通に止まるのは問題ないので制動力自体はおそらく十分とみられる。
おそらく踏み代だけの問題だな。

だけどまず一応、ブレーキリザーバタンクを見た。
外部へのブレーキ液漏れがあればここが極端に減るが、それはなし。
ディスクブレーキなので、パッドが減った分ピストンが出て行くため、パッド摩耗に従って液面も少しは下がる。それは正常だ。
次はキャリパ周辺を目視。液漏れの痕跡はここにもない。
つまり、キャリパの虫食いで液が逃げてペダルが奥に入る、という恐れはほぼないことになる。

次はまずフロント左から、ホイールを外して、フロントキャリパを外して見てみた。ホースは外さない。
べつにどこから最初に見てもいいんだけど、たまたまフロント左から始めただけだ。
さて、見てみると、内側パッドが斜めに減っていた。
フロントブレーキは、よくある片押し2ポット。つまり、ディスクの片面を2個のピストンで押す形式のやつだ。
パッドが減ると、ピストンが出ただけキャリパ自体がスライドして自動調整される。
2個のピストンで1個のパッドを押すので、2個のピストンの出方にばらつきがあったり、キャリパのスライドが片寄ったりすればパッドが斜めに減ってしまうのだ。

パッドを外して、かーちゃんにブレーキ踏んでもらった。ピストンはフリーの状態だ。
すると案の定、減りの大きい側のピストンしか出てこない。ピストンがフリーなので、踏み応えはスカスカだ。
そこで、動くほうのピストンをシャコ万で固定して、踏んでもらった。
今度はもう一つのピストンが出てきた。やや踏み応えを感じるとのことなので、固着気味だったのだろう。

固着しているピストンは、パッドが減ってもそれに応じて出てこれない。従って、パッドの動きのいいピストンに押される側が当たって油圧がかなり上がってから、シールを無理にゆがめる形でじわっとパッドを押すことになるか、あるいは完全固着では全く押せない。結果として、パッドの動きのいいピストン側ばかりが押されて摩耗が進み、斜めに減ることになるのだ。

なんとか出てきたピストンだが、完全に抜けるまで出してしまうと後が面倒なので、とりあえずやばくなる手前で踏むのをやめてもらい、ダストブーツをめくってピストンを見てみた。
ピストンにサビが出ていた。ブーツのキャリパ側の付け根が一部抜けて歪んでいるので、ここから水が入ったのかもしれない。
スペアブーツは手元にないし、ブーツはピストン外さないと交換できないので、とりあえずピストンのサビを出来るだけ落として洗ってやった。
ピストンにシリコンスプレーをくれて、シャコ万でピストンを押し戻す。結構力が要る。
戻ったらまたシャコ万外して踏んでもらうと、まだ片方だけ先に出る。
再びそっちをシャコ万で固定して踏んでもらうと、今度はさっきよりは軽く固着側のピストンが出てきた。
ピストン表面にはサビ色のシリコンオイルが付いているので、再び洗ってシリコンスプレーし、シャコ万でピストンを押し戻す。
これを2個のピストンが軽く出てくるまで何度か繰り返すのだ。この作業を通称「揉み出し」と呼んでいる。
理想的には、フリーの状態で2個のピストンが同時に出てくればいい。キャリパオーバーホール直後はまさにその状態になる。
しかし、使用過程のシールとキャリパなので、そこまでは実際なかなか難しい。
なので俺は、ピストンフリーでやや出方に差はあっても2個がなんとか出てくる、とか、出のいいほうのピストンを指で軽く押さえれば、出の悪いほうのピストンが軽く出てくる、といったあたりで実用上はよしとしている。
ダストブーツがはみ出ているとこは、ピックの背を使って押し込んでもなかなか入らない。針先を使うとゴムが切れてしまうし、入れるのは非常に困難というかほぼ無理だ。そこはほどほどであきらめた。
フロント左を終えたとこで日没間近になり、中断。

さて、踏んでみると、まだ踏み代が大きい。パッドが斜めだから仕方ない部分もあるけど、反対も見てみないとなんともいえない。
とりあえず、SX125Rのテストランでも使った無人地帯の道で速度を変えながら急制動テストしてみると、手放しでも左右にとられることなく、乾燥舗装路でタイヤを鳴かしてABSをびっくりさせることができた。バックでもタイヤを鳴かせれる。
これなら制動力は問題ない。踏み代はまだやや大きい感じなので、反対も見てみなきゃダメだな。
やれやれ、これじゃバイク乗るヒマないなあ。
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