hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

山本文緒「再婚生活」を読む

2008年10月08日 | 読書2


山本文緒著「再婚生活」2007年5月、角川書店発行を読んだ。

山本さんが「うつ」で苦しんだり、入院したり、そして回復しつつある時期の日記だ。2003年から2007年にかけて、本当に病状がひどい時期を除いて、断続的に「野性時代」に連載されたものだ。
日付と短いときは数行の、作品というより、おそらくはほとんどありのままの日記だ。もちろん、そこは作家なので誇張、受け狙いはあるだろうが。

前半はうつがひどく、過眠と不眠を繰り返す。
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“過眠期は12時間以上寝ても起きた瞬間にもう卒倒しそうなほど眠くなる。不眠期は一日中眠くて、眠いのに眠れない。過眠期には体は楽だが、また何もせずに一日が終わってしまった罪悪感にやられてうつスパイラルに入るので、不眠期の方が精神的には楽かもしれない。”
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すこし回復してきて、山本さんは思う。
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“ずっと私はうつになった原因は、なにか心因性のものだと思っていた。仕事上のいろいろなストレスや引越しや再婚で、感情のバランスが狂ったのだと思っていたけれど、そうじゃなかったと最近しみじみ思う。だいたいその「外から攻撃された」という被害者意識がまずいけなかった。
私の場合、悪い体が黒い心を生んだのだと思う。”
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このように、浴びるようにお酒を飲み、どんどん煙草を吸い、油物や肉を毎日食べて、体も心も重くなったと考えるようになった。
実際、この日記を読んでいる私も、前半部はこんな生活じゃ、悪いほうへ悪循環していくだけだなと思った。しかし、こんな状態の中でもなんらかの作品を書いているのだから、作家の業(ごう)と言うものは恐ろしい。

日記にときどき有名人が出てくるが、大半はご主人と秘書と出版社の人で、作家にもよるのだろうが、作家といってもごく狭い世界で暮しているのだと思った。

山本さんの再婚相手で、文中「王子」と呼ばれる人(職業は雑誌の編集長)は偉い。ほぼ回復してから、夜、お酒を飲みながら、彼が言ったことが書かれている。
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“私にでていけと言われて車で家を出て、首都高をぐるぐる走っていたら電話がかかってきて帰ってきてと言ったそうだ。それは我ながらひどい。王子は私が入院している頃は掃除ばかりしていたらしい。掃除をしているときしか気が紛れず、そんなつらい気持ちを誰にも言えなかったそうだ。今更だけど、ごめんなさいと謝った。”
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山本文緒の略歴と既読本リスト



私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

私はうつになるとどうなるのか、回復過程では、と興味があった。また、作家というものは、とても仕事などできないような厳しい状況と戦いながら、むしろそういったときのほうが、素晴らしい作品を創造する場合があり、どうしてと思っていた。そんな意味でこの本は私には面白かった。
陰鬱な話がつづく日記だが、著者は根っこのところでユーモアがあり(大学では落語研究会)、作家として当然ながら自分を客観的に見る目も持っている。しかし、うつなど暗い話はいやという人は、だらだら続く日記など読みたくないだろう。



巻頭に小さな写真が何枚もあって、山本さんの写真がある。文中に出てくる自分で手編みしたマフーラーをしている。ぽっちゃりして想像していたより可愛くて美人だ(どういう意味?)。とぼけた顔の「王子」の写真(多分)もある。







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