hiyamizu's blog

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グレアム・グリーン「ヒューマン・ファクター」を読む

2009年08月05日 | 読書2

グレアム・グリーン著、加賀山卓朗訳「ヒューマン・ファクター」THE HUMAN FACTOR, 2006年10月, 早川書房発行、早川epi文庫を読んだ。

南アフリカのアパルトヘイトに絡み、イギリス情報部の極秘事項がソ連に漏洩した。上層部は、秘密裏に二重スパイの特定を進める。古株のカッスルは嫌疑を免れるが、同僚のデイヴィスは派手な生活から疑惑を持たれる。諜報機関の一員だったグリーンが、追われる者の心理を鋭くえぐり、裏切りとはなにかを考えさせるスパイ小説だ。

二重スパイというと、多彩な事件、派手なアクションを想像するが、しっかりした人物描写、濃密な心理描写で、しだいに追い詰められていく者に読者を同化させてしまう。文学性とエンターテイメントのバランスがとれた名作だ。



あとがきによれば、グリーンは大戦中の数年間、諜報機関の中で過ごしたが、「興奮するようなことにも、メロドラマにも、ほとんど出会わなかった」という。本書のいたるところで、ジェイムス・ボンドものが批判されているが、グリーンは暴力を極力排除したスパイ小説を書こうと決意し、役人スパイのやるせないリアルな日常を描いた。
もちろん、二重スパイを探り、探られるという複雑な構成なので、読む者にはスリルある展開になっている。

二重スパイというと裏切りと言われる。実在の二重スパイであったキム・フィルビーの自伝について、本書のあとがきによれば、実際にフィルビーと付き合いがあったグリーンは、こう言っている。
「<彼(フィルビー)は祖国を裏切った>―そう、それはその通りだろう。しかし、われわれのうちで、祖国よりも大切な何かや誰かに対して裏切りの罪を犯さなかったものがいるだろうか。」

これ以上書くと、ミステリー紹介のルール違反となるので、ここまでにする。



グレアム・グリーン(Graham (Henry) Greene は、 1904年10月ロンドン北西のバーカムステッド生まれで、1991年4月死去。
20世紀のもっとも偉大な作家のひとりと言われる。1904年オックスフォード大学卒業後、「ザ・タイムズ」に勤務。1929年で「内なる私」で作家デビュー。第二次大戦中は情報活動に従事。代表的なカトリック作家で、27歳で共産党に入党し、晩年まで共産主義への共感を持ち続けた。
主な作品は「ブライトン・ロック」(1938)、「権力と栄光」(1940)、「事件の核心」(1948)、「情事の終り」(1951)など。「第三の男」(1950)は大ヒット映画となったが、他にも、彼の作品は大半が、映画化またはテレビドラマ化がされている。

訳者の加賀山卓朗は、1962年生まれ。東大法学部卒、英米文学翻訳家。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

私が本書を読むきっかけは、城山三郎が意外にもミステリーの熱烈なファンで、中でも本書を絶賛していると何かで読んだからだ。本書のあとがきにも、小林信彦、結城昌治、遠藤周作がグリーンを絶賛している。

登場人物がそれぞれ生き生きとし、いろいろ考えさせる深みと、面白さが同居している。文章が上手い作家にありがちな冗長な心理描写、風景描写なしに、簡潔な会話で読者に舞台、人物を明快に想像させる。グリーンの作品の多くが映画化されたのも、うなづける。











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