川上弘美著『此処彼処(ここかしこ)』2005年10月日本経済新聞社発行、を読んだ。
1月から12月まで、都内を中心に子供の頃過ごしたアメリカなどを加え、52箇所に関わる思い出を記したエッセイだ。いつもの身の回りのことなのに、ちょっととぼけた川上節が満載だ。
大学のとき、下級生とピーナッツ掘りに行った。13年後に、次男を生んだばかりで、この鶴巻温泉に移った。文学賞応募用に、ピーナッチ掘りが特技の女主人公の小説と、神様という短編を書きあげた。迷ったが「神様」の方を応募した。逆だったら、今と違った作風になっていたかもしれないと語る。このときの下級生その2は小説家になったと書いてあるので、多分、当時SF研究会の松尾由美だろう。
どうでもいいといえば、どうでもいい話がほとんどで、それがとぼけた、変わった捉え方で語られるのが川上節だが、ときどきマジになり、なるほどと思ったところがあった。長いが引用する。
辛辣な友だちの言葉を、受話器を握りしめながら、ふんふん聞く。時々わたしも辛辣なことを言ってみる。友だちがキレのいいことを言ったときには、なるたけ品悪く笑う。
そうしているうちに少しだけ憂鬱が晴れてくる。しょせん、とかいう言葉がうかんでくる。しょせんわたしは、でも、しょせん世界は、でも、どっちでもいい。
初出:日本経済新聞朝刊(日曜日付)2004年1月4日~12月26日
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
気楽に読めるが、なんという事ない話ばかりだ。川上ファン以外にはお勧めしない。主に東京の地名がそのまま出てくるので、私には「そうそう」と思ったりして親しみを感じるのだが。
銀座線の走行途中で一瞬電気が消え、金属製つり革が手前に引いて離すと元に戻る話が懐かしい。ついでに言えば、もっと昔には、地下水が豊富だったので、車外にはポタポタ水が垂れていて、車内内は夏でも涼しかった。
五才のときオークランド近郊のモーテルで、TVのアナウンサーが盛んに「サシネ(assassination)」と叫ぶ。お母さんに聞くとアンサツだという。ケネディが暗殺されたのだ。このとき私は山を縦走中だった。山を降りて初めてケネディが殺されたのは知った。あのときの衝撃、絶望感は今でも生々しい。
川上弘美の略歴と既読本リスト