hiyamizu's blog

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池田信夫『「空気」の構造』を読む

2013年12月28日 | 読書2

池田信夫『「空気」の構造 日本人はなぜ決められないのか』(2013年5月白水社発行)を読んだ。

池田信夫氏は、NHKで報道番組「クローズアップ現代」などを手掛け、退職後に主として経済問題の人気ブログを始め、言論サイトを主催している。
本書は、丸山眞男、山本七平、網野善彦の日本人論を元に、池田さんの日本人論を展開している。その多くはすでに池田さんのブログで読んだ内容ではあるが、まとめ読むと、日本人の意思決定はその「空気」で決まるとの主張は明快だ。「空気」は場の雰囲気だけではなく、まわりの人々の暗黙の同調圧力をさす。

誰もが分かるほど無駄な戦艦大和出撃決定の経緯など、数々の日本軍の失敗はじめ、多くの昔の失敗例が分析され、合理的でない「空気」による決定だったことが述べられる。

役所や企業のタコツボ的な自律性が強く、人々がまわりの「空気」を読んで行動するため、責任の所在が曖昧で中枢機能が弱い。・・・長期的な戦略が立てられない・・・目的を設定して必要のない部分を切る全体戦略がない・・・「平時」に淡々と業務を運営するときは強いが、「有事」の危機管理に弱い。

天皇制に象徴される日本の中心なき組織は、山本七平もいうように内部は曖昧で柔らかいが、外部からの攻撃を殻によって守るサザエのような「外骨格」なので、内部から殻を破ることはむずかしい。内部の紛争を抑制して殻の中に収める閉じた社会は、小さな攻撃には強いが大きなショックに弱く、殻の大きさを超えて成長できない。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

基本となる主張、多くの分析は納得できるものだが、230頁を超え、ブログを基にしたためだろうかダブりも多く、冗長だ。また、事例の多くが戦前のもので、最近の例が少なく、興味がわかない。

どうしたら良いかについて、説得力ある論は当然なく、問題の指摘に留まっている。

一方で、多くの人は、著者の主張はすでにわかっていて、だからこそ、なにか殻を破ってくれそうな橋下さんや石原さん、あるいは猪瀬さん、安倍さんといった強そうなリーダーを選んでいるのではないだろうか。しかし、危ないことになりそうなリスクがあることをしっかり自覚しているのだろうか心配だ。また、強引な人は、まじめに働かず、ツイッターにかまけたり、仕事場にめったに顔を出さなかったり、地道な仕事をしっかりこなしたり、こなさせたりすることを馬鹿にしがちなのも、私は気に食わない。

安倍首相の祖父、岸信介はCIAから30億円以上の資金提供を受けていた外国のスパイだったことは、アメリカ政府の公式に認めているという記述は、(すでにブログにも書かれていたが)もっと問題になってよい。



池田 信夫(いけだ のぶお)
1953年生。東京大学経済学部卒業後、NHKに入局。報道番組「クローズアップ現代」などを手掛ける。同局退職後、慶應義塾大学で博士(学術)取得。現在、株式会社アゴラ研究所所長。著書に『電波利権』(新潮新書)、『ハイエク 知識社会の自由主義』(PHP新書)、『イノベーションとは何か』(東洋経済新報社)、『「日本史」の終わり』(與那覇潤との共著、PHP研究所)他。





目次

はじめに──日本人は特殊か

序章 「空気」が原発を止めた
 首相からの突然の「お願い」/玄海原発の失敗/「空気」が法律より重い国

第一章 日本人論の系譜
 罪の文化と恥の文化/講座派と労農派/敗戦と悔恨共同体/文明の生態史観/唯物史観と「水利社会」/タテ社会とヨコ社会/人と人の間/安心社会と信頼社会/「水社会」の同調圧力/灌漑農業のボトムアップ構造

日本人の肖像──福沢諭吉

第二章 「空気」の支配
「日本教」の特殊性/自転する組織/日本軍を動かした「空気」/公害反対運動と臨在感/アニミズムから一神教へ/一揆と下克上/動機の純粋性

日本人の肖像──北一輝

第三章 日本人の「古層」
 超国家主義の構造/無責任の体系/国体という空気/フィクションとしての制度/つぎつぎになりゆくいきほひ/永遠の今と「世間」/キヨキココロの倫理/「まつりごと」の構造/天皇制というデモクラシー/全員一致とアンチコモンズ/ボトムアップの意思決定/「古層」とポストモダン/近代化なき成長の終わり

日本人の肖像──南方熊楠

第四章 武士のエートス
 日本のコモンロー/徳川の平和/自然から作為へ/尊王攘夷の起源/開国のインパクト/惑溺と自尊

日本人の肖像──岸信介

第五章 日本軍の「失敗の本質」
 目的なき組織/曖昧な戦略/短期決戦と補給の軽視/縦割りで属人的な組織/心情が戦略に先立つ/心やさしき独裁者/両論併記と非決定/大日本帝国の密教と顕教

日本人の肖像──石原莞爾

第六章 日本的経営の神話
 外国人の見た日本企業/日本的経営の黄金時代/勤勉革命の伝統/日本的労使関係の起源/日本企業は町工場の集合体/協力と長期的関係/共有知識としての「空気」/村から会社へ/日本的雇用がデフレを生んだ/年功序列の終焉/グローバル資本主義の試練

日本人の肖像──中内功

第七章 平和のテクノロジー
 殺し合う人間/集団淘汰と平等主義/偏狭な利他主義/戦争が国家を生んだ/「無縁」とノマド/飛礫の暴力性/古層と最古層/なぜ「古層」は変わらないのか

日本人の肖像──昭和天皇

第八章 日本型デモクラシーの終わり
 空虚な中心/多頭一身の怪物/霞が関のスパゲティ/「政治主導」の幻想/日本型経営者資本主義の挫折/約束を破るメカニズム/セーフティ・ネットが檻になるとき/閉じた社会から開かれた社会へ


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