藤野千夜著『君のいた日々』(2013年11月角川春樹事務所発行)を読んだ。
第1章は、入院して4ヶ月足らずで亡くなった妻・久里子を亡くし1年経つのに、何かというと思い出して泣いてしまう夫・加部春生が主人公。第2章は、前日の喧嘩のためにいつもの見送りより扱いを冷たくしてしまい、その日の帰宅途中に駅で倒れ亡くなった夫・春生の死を引きずったまま1年経った妻・久里子が逆に主人公。
愛妻を亡くした夫と、愛夫(あれ! この言葉はない。なぜ?)を失った妻が、かけがえのない人を失った哀しみを抱え、何かと思い出に浸りながら、日々を過ごしていく。夫と妻、それぞれ逆の立場から、交互に描く夫婦愛の物語。
反抗期で母親の久里子には冷たく当たるが、哀しみを抑えることができ、春夫に比べはるかに大人である息子の亜土夢、サバサバした春夫の姉など登場人物は少数だがすべて善人に囲まれたほんわかした愛の思い出。
本書は書下ろし
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
仲の良い夫婦について、お互いを亡くした場合が交互に描かれる。多くの年とった夫婦なら、自分が先なら、あるいは相方が先ならと、ふと考えることがあるだろう。70代になれば、いよいよ片方が欠けることが現実的になり、あと何年このままでいられるのかと、毎日がいとしくなる。しかし「50歳ではまだまだじゃのう」。
伴侶を亡くした心境が交互に語られ、その違いにはなるほどと思う点もあるが、同じような内容が続き、いささか飽きる。とくに夫は、やたらと泣くので、自分で笑ってばかりで客はあくびする落語家のようで、付いていけなくなってしまう。
藤野 千夜(ふじの・ちや)
1962年福岡県北九州市生まれ。麻布中学校・高等学校、千葉大学教育学部卒業。
漫画雑誌の編集者を経て、1995年「午後の時間割」で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。
1996年『少年と少女のポルカ』で野間文芸新人賞候補
1998年『おしゃべり怪談』で野間文芸新人賞受賞
1999年「恋の休日」で芥川賞候補
2000年「夏の約束」で芥川賞受賞(同性愛者のカップルを中心に現代の若者風俗をえがいた)
2006年『ルート225』が映画化
男性であることに違和感があり、女性として生活。