桜木紫乃『ホテルローヤル』(2013年1月集英社発行)を読んだ。
釧路湿原を見下ろす北国のラブホテル「ホテルローヤル」。閉館し廃虚となった後から、40年前のホテル開業前まで順にさかのぼる連作7。男と女が裸で互いに心も身体も求めるラブホテル、そこを訪れる客、経営者の家族、従業員たちの切ない話をどこか冷静に語る。
著者の実家は、ホテルローヤルというラブホテルを経営していて、中学3年の開業時から、建物内に家族で住み、掃除など手伝いに明け暮れた。著者は、「大人って体を使って遊ぶんだあ」と思い、一方で「整理のつかない経験だった」とインタビューで語っている。
シャッター・チャンス
怪我で挫折したアイスホッケーの元選手でスーパーの宅配運転者の男が、同じスーパーの事務員の恋人の写真を廃墟となったラブホテルに一室で撮る。
本日開店
死ぬ間際に「本日開店」と言って死んだホテル経営者。その遺骨を預かった貧しい寺の妻は、檀家からお布施を頂くために・・・。
えっち屋
心中事件があって廃業することになったホテル経営者の29歳の娘は、出入りのアダルト玩具販売の営業担当者と、ゲンの悪い3号室に復讐しようとするが・・・。
バブルバス
墓地で住職を待つ妻は、住職が来ないので余裕ができたお布施の5千円で夫とホテルに入る。
せんせぇ
妻が高校時代の担任と20年続いているとわかった高校教師は、べたべたした声の、馬鹿な格好した女子生徒に付きまとわれる。2人は釧路へ向かう。
星を見ていた
60歳になる山田ミコはホテルの掃除婦。二男一女はもう実家には来ないので、働くことのない10歳下の夫との二人暮らしだ。
ギフト
42歳の田中大吉は看板業者だが、歳が半分ほどの愛人るり子と、すべて借金でラブホテルを開業する。
初出:「小説すばる」2010年4月号~2012年3月号、「本日開店」は書下ろし
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
ラブホテルの廃墟から逆に時間をたどって開業に向かって7つの話が続くので、結果を知ってから経過を知る構成がいろいろ思わせる。
主人公は、いずれも人生、横道のそれかけた者で、貧しく、疲れている。そんな彼らが誘われるように集まってくるラブホテル。人生が凝縮したところ、それがホテルローヤル。
えらく臭い使用後の部屋に入り、掃除するところなど、さすがリアル。
桜木紫乃(さくらぎ・しの)の略歴と既読本リスト