柚月裕子著『検事の死命』(2013年9月19日宝島社発行)を読んだ。
郵便物紛失事件の謎に迫る佐方が、手紙に託された老夫婦の心を救う………「心を掬う」
感涙必至! 佐方の父の謎の核心が明かされる「本懐を知る」完結編………「業をおろす」
大物国会議員、地検トップまで敵に回して、検事の矜持を押し通す…………「死命を賭ける」(『死命』刑事部編)
検察側・弁護側-双方が絶対に負けられない裁判の、火蓋が切られた…………「死命を決する」(『死命』公判部編)
骨太の人間ドラマと巧緻なミステリーが融合した佐方貞人シリーズ。刑事部から公判部へ、検事・佐方の新たなる助走が、いま始まる!
ヤメ検弁護士の佐方貞人が検事の時代だったころの活動を扱った『検事の本懐』に続く作品群。
「心を掬う」 郵便物紛失事件短編
おなじみの飲み屋の親父が、常連客が北海道にいる娘に出した郵便が届かないと言った。増田も、市内の人が埼玉に出した郵便物が届いていないと同じような話を語った。佐方は増田に、2件の郵便物の宛先、投函場所を調べてもらいたいと依頼する。増田はなぜ郵便物の紛失話を調べるのか不審だった。調べてみると、どちらも扱いは中央郵便局だった。そして、トイレの浄化槽に入って証拠品を掬うことになる。
両親を亡くし、奨学金で北大に通う佐方に祖父母から時々手紙が届き、中には皺だらけの5千円札が入っていた。
佐方貞人(さかた・さだと):米崎県米崎市の米崎地検刑事部の担当検察官
増田陽二:検察事務官
筒井:刑事部副部長
福村:米崎中央郵便局・郵政監察官
「業をおろす」 父はなぜ執行猶予を求めずに実刑を受け入れたのか
佐方検事が広島の県北にある故郷、次原市山田町に、父・陽世の十三回忌法要のため6年ぶりに帰郷した。龍円寺の住職は父陽世のおさな友達、上向井英心で龍円さんと呼ばれていた。
陽世は小田島建設創業者・小田嶋隆一郎の遺産を管理する弁護士だったが、横領罪に問われ、逃れることができたのにあえて執行猶予を受けず実刑を受け入れた。父は服役中に膵臓癌で死に、貞人はその理由を知ろうと、父の親友の龍円に質問するがその場では答えず、関係者が一堂に会した十三回忌の法要の中で、真実を語り始める
「死命を賭ける「死命」刑事部編」と「死命を決する 「死命」公判部編」
事件としては小さな、衣服の上から触った女子高校生への痴漢行為の起訴に、上層部から圧力がかかる。佐方は意に介さずに起訴し法廷でも新事実を見つけ出して、……。
被害者は、万引きと恐喝で補導前歴のある高校生・仁藤玲奈。被疑者は、43歳の会社員・武本弘敏だが、県内の資産家一族本多家の係累。武本は無罪で、少女が「お金を払えばなかったことにしてやる」とささやいたとを主張する。
佐方は、事実を確認し、県下最大弁護士事務所の井原弁護士を敵に回す覚悟をして、起訴状を提出する。
その後、佐方は、骨のある上司の筒井と同時に刑事部から、裁判対応の公判部に異動して、痴漢事件を法廷の場で弁護士と論争する。弁護側証人として半田が突然登場し、被告有利に展開するが……。
初出:『しあわせミステリー』、『『このミステリーがすごい!』大賞作家書き下ろしBOOK』、書き下ろし
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
検察上層部や政治的圧力を全く動じず、ものともしない佐方の矜持ある生き方には、それもありとは思うが、単純すぎて乗っていけない。真実に迫る佐方の粘り強さ、ひらめきには感心するのだが。
何十件もの案件が同時進行する検事が、どんな些細な事件にも全力投球するのはいかがなものか。何にウエイトを置くかは別としても、メリハリをつけるべきだとだろう。佐方は過去自分が辛かった事柄と同様と思われる事件に力を入れているらしい。個人の経験でなく、社会へのインパクトの大きな事件に力を入れるべきではと思う。もっともそんなこと言っていたら小説にならないけど。
弁護士が真犯人とわかっていた被告の無罪を獲得したことを心の負担に思い、自らを罰するのはいかがなものか。そんなこと言ったら弁護士などやってられないと思う。遺族の気持ちを思うと、疑問が沸き、心に引っ掛かりを残すのはわかるにしても。
母子家庭の玲奈が叫ぶ。「お母さんは言ってた、自分のための嘘は絶対ついちゃいけないけど、人を助けるためなら許されるって。お母さんはそうやって生きてきたんだ。……あたしは…あたしは、母さんの娘(こ)だから……」