hiyamizu's blog

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伊岡瞬『赤い砂』を読む

2021年03月13日 | 読書2

 

伊岡瞬著『赤い砂』(文春文庫い107-2、2020年11月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

男が電車に飛び込んだ。現場検証を担当した鑑識係・工藤は、同僚の拳銃を奪い自らを撃った。電車の運転士も自殺。そして、拳銃を奪われた警察官も飛び降りる。工藤の親友の刑事・永瀬遼が事件の真相を追う中、大手製薬会社に脅迫状が届く。「赤い砂を償え」――自殺はなぜ連鎖するのか? 現代(いま)を映し出した書き下ろし傑作!

 

本作品は、「2000年代初頭、発症すると、錯乱し破滅的行動の果てに自殺する恐るべきウイルスの感染症が、東京において発生した」という物語で、デビュー前に書いた作品を大幅手直ししたものだ。

コロナ禍だから「新型ウイルス」をテーマとした17~18年前のボツになった作品に、大幅に手を加えて、今頃出すとはという批判に答える理由を、著者がweb限定版「もう一つのあとがき」で公開している。

著者は以下の「しばり」を課して書いているという。

当時の知見、テクノロジーを越えて描かない。その後知り得たことは、どんなに入れたくても入れない――。…… たとえば、今日では小学生でも知っている『PCR検査』『パンデミック』『クラスター』さらには『サイトカインストーム』『集団免疫』などなどの文言は一切出てきません。

 

 

国立疾病管理センター職員の阿久津が電車に飛び込んだ。現場検証した警視庁戸山署の鑑識係・工藤は、その後、食堂で狂乱し、同署交通課の山崎の拳銃を奪い自らを撃って死亡した。JRの電車運転士・早山も妻・朋子の前で、突然狂ったように包丁で自分を刺し、外に飛び出してトラックにはねられて死んだ。

 

戸山署刑事・永瀬遼は普段はベテランの武井とペア―を組んでいたが、この捜査陣では本庁捜査一課の長谷川と組んで捜査に加わることになる。さらに、拳銃を奪われた山崎も飛び降り自殺する。しかし、警察幹部は、署員が拳銃を奪い銃撃するという事態に、外部にもれないように、事件でなく事故として扱い、他の自殺もそれぞれが単独の事故として穏便に処理してしまう。

 

一方で、大手の西寺製薬会社会長は西寺喜久雄で、息子の信毅はワンマン社長、孫の暢彦は大学生だった。信毅は秘書室長の佐脇を介した外部からの手紙には目を通すが、なかに「赤い砂を償え 遺族に二億ずつ、一週間以内に支払うこと 実行されない場合には鉄槌が下るだろう」との脅迫状があった。かって、佐脇は阿久津との橋渡しを探偵社の斉田に依頼していた。また、会社の顧問には、警視庁長官官房審議官だった園原を招いてあった。

 

永瀬は親友の工藤の家で、妻・一恵に手料理がふるまわれ、よちよち歩きの瑛太もいる平和な家庭を目にしており、自殺する動機がないと、処分覚悟で事件の真相を追い続ける。死んだ阿久津の妻の岩永多佳子や、阿久津の同僚だった有沢美由紀を探し出して、情報を得る。事件発生から3年経過し、探偵事務所の斉田が自殺した。

 

この作品は書き下ろし。

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

けっこうダイナミックな話で、話の筋の予想はつくが、どれどれと読み進めてしまう。連鎖する自殺が、ゾンビ物映画のようで、エグイ映像が目に浮かび、興奮しながら、次は何だともどかしい思い。

 

殺人者が明らかになる場面はバタバタだが、最後の最後で永瀬がどうなるのか明示されないで終るのがいいね。

 

 

伊岡瞬の略歴と既読本リスト

 

コメント
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