瀬尾まいこ著『その扉をたたく音』(2021年2月28日集英社発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
本屋大賞受賞『そして、バトンは渡された』著者の新たな代表作!
音楽と人が生み出す、たしかな希望の物語。
29歳、無職。
ミュージシャンへの夢を捨てきれないまま、怠惰な日々を送っていた宮路は、ある日、利用者向けの余興に訪れた老人ホームで、神がかったサックスの演奏を耳にする。
音色の主は、ホームの介護士・渡部だった。「神様」に出会った興奮に突き動かされた宮路はホームに通い始め、やがて入居者とも親しくなっていく――。
人生の行き止まりで立ちすくんでいる青年と、人生の最終コーナーに差し掛かった大人たちが奏でる感動長編。
宮路は29歳。ときどき「そよかぜ荘」などの老人ホームや病院にギターの弾き語りに行くが、音楽を仕事にしているわけではない。親が金持ちで毎月30万円の仕送りで暮らしているのだ。もはや自分でも何になりたいのか不明だ。30歳を区切りにと考えてはいるのだが。
利用者の水木静江は宮路を「おお、ぼんくらこっちこっち」と呼ぶ。「仕事もしてないみたいだし、名前もないのかと」
ギターもウクレレも区別がつかない80を過ぎた本庄というおじいさんが宮路にウクレレを教えてくれと頼みに来る。宮路もなぜかウクレレを買って本を読んで練習し始める。なにしろ時間はたっぷり余っている。真面目そのものの本庄さんは練習熱心で、意外と素質があった。ますます熱が入る二人だったが……。
宮路の好きな曲は、Green Day の “Wake me up when September ends”。
本庄さんが宮路と一緒に演奏会でやりたいと言っていたのは、坂本九の「心の瞳」だったのだが……。
「心の瞳」の歌詞はこう終る。
愛すること それがどんなことだか/ わかりかけてきた/ 愛のすべて 時の歩み/ いつもそばで わかち合える/ 心の瞳で 君を見つめれば
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
読みやすく、いい話ではあるが、想定の範囲内で、特別ではない。
水木さんの宮路に対するあけすけな言葉や、本庄さんの宮路に向けるまっすぐな熱意が、宮路の心の中の何かを起こしたのに、……辛すぎる。