永井みみ著『ミシンと金魚』(2022年2月10日集英社発行)を読んだ。
集英社文芸ステーションの内容紹介(著者とインタビュー記事(+写真)があります)
「カケイさんは、今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」
ある日、ヘルパーのみっちゃんから尋ねられた“あたし”は、絡まりあう記憶の中から、その来し方を語り始める。
母が自分を産んですぐに死んだこと、継母から薪で殴られ続けたこと、犬の大ちゃんが親代わりだったこと、亭主が子どもを置いて蒸発したこと。
やがて、生活のために必死にミシンを踏み続けるカケイの腹が膨らみだして……
この世に生まれ落ちて、いつの日か死を迎え、この世を去る。
誰もが辿るその道を、圧倒的な才能で描き出す号泣必至の物語です。
第45回すばる文学賞受賞作。
暴力と愛情、幸福と絶望、諦念と悔悟…… 認知症を患う“あたし”が語り始める、像絶な「女の一生」。
兄にあてがわれて結婚したが、息子の健一郎が生まれてすぐに、健一郎、亭主の連れ子・みのるを置き去りに亭主は蒸発。やがて、生活を支えるためにはこれだけしか出来ないと懸命にミシンを踏み続けるカケイの腹が大きくなる。トイレで生んだ道子と過ごす日々は、しあわせそのものだった。それなのに――。
(安田)カケイ:語り手だが、認知症。旧姓は金子。
兄貴:カケイの兄。金ちゃん。一時パチンコ屋を経営して羽振り良かった。暴力的だがカケイにはやさしい。
健一郎:カケイの息子。2年前に死亡。嫁と30歳になる息子(カケイの孫)・亮太がいる。
みっちゃん:デイサービスと、訪問看護に、二人のみっちゃんがいる。カケイの娘の道子の名でもある。
広瀬のばーさん:デイサービスでカケイと一緒。カケイの兄の女だった。入れ墨があり、いまだに化粧も濃い。
米山丈治:デイサービスでのカケイのお友達。
初出:「すばる」2021年11月号
私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)
語り手のカケイは認知症なので、最初、話が分かりにくい。話は本当のことなのか半信半疑のまま我慢して読んでいると徐々にベールがはがれてきて面白くなり、気が付いたら読み終えている。
悲惨な凄惨な女の一生なのだが、そんなこと気にしない風で、とぼけていて、楽しく読める。
カケイは時に意識してとぼけて話を逸らしたりするので余計に混乱する。認知症になると、人によるのだろうが、こんなになるんだと実感できる。著者は介護ヘルパー経験があるので、まあ当たっているのだろう。
文章は読みやすいのだが、独特のユーモアとゆったりしたとぼけた一人語りに引き込まれて、奇妙な世界へ連れ込まれる。「小説っていいな」と思った。異才は、今後もこのような変わった小説を書いてくれるのだろうか?
永井みみ
1965年神奈川生まれ。ケアマネジャーとして働きながら執筆した本作で第45回すばる文学賞を受賞。
著者自身、コロナで厳しい状態になって、おむつの中で排泄したり、とろみ食を体感して、無自覚ながら介護体験からの上から目線の小説だったと気づき、書き直したという。
群像のエッセイ「ウィズコロナ/永井みみ」がリアルだ。