米澤穂信著『黒牢城(こくろうじょう)』(2021年6月2日KADOKAWA発行)を読んだ。
KADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」の特設サイトの書籍紹介
本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の集大成。『満願』『王とサーカス』の著者が辿り着いた、ミステリの精髄と歴史小説の王道。
第166回直木賞受賞、第12回山田風太郎賞受賞。
4大ミステリランキング1位(「ミステリが読みたい! 2022年版」、週刊文春ミステリーベスト10、『このミステリーがすごい! 2022年版』、『2022本格ミステリ・ベスト10』)
織田軍に包囲された有岡城に、降伏を勧めるために入城してきた小寺官兵衛(黒田官兵衛、黒田如水)を、村重は殺すこともなく、土牢に閉じ込めた(史実)。村重は城内で起こる様々な事件の謎を、知恵者の官兵衛に聞かせ解かせようとする。歴史小説とミステリを融合させた小説なのだ。
第一章「雪夜灯籠」
高槻城の高山右近、茨木城の中川瀬兵衛が織田に寝返り、安部二右衛門も大和田城を開城した。人質にしていた二右衛門の一子・自念を、村重は処刑せず納戸に閉じ込めた。しかし自念は矢傷を負った死体で発見される。納戸は厳重に監視され、雪の庭に足跡はなく、凶器の矢が消えていた。
密室殺人の犯人は誰か?
第二章「花影手柄」
村重は、右近の父・高山大慮が束ねる南蛮宗の高槻衆と、鉄砲名人で一向宗の雑賀衆を率いて織田の陣を夜襲し、4つの兜首をあげた。どれが大将の大津伝十郎の首か、宗教対立を起こさず、不満を残さないように推理していく。
第三章「遠雷念仏」
村重は、明智光秀を介し織田信長と和平交渉を進めていて、仲介の廻国の僧・無辺に密書と茶壺の名器「寅申」を託したが、無辺は刺殺された。「寅申」は奪われ、密書は読まれた跡があった。家臣に和平交渉を悟られないようにしながら、犯人を捜す。
第四章「落日孤影」
犯人は落雷で死んだが、村重は狙撃した跡を発見する。
最後の最後で史実とおりに村重は‥‥。
織田の下で、知将にして数ある戦績をあげた勇者・村重は、無理を承知で毛利に期待して織田を裏切った。なぜ、村重は成功する確率が低いのに織田を裏切ったのか? 降伏した相手も、女子供もすべてを殺してしまう織田に対し、人質や密使官兵衛を殺さないのは単なる織田への反感なのか、村重の裏切りは思い付きか、思慮した結果なのか。
初出:「文芸カドカワ」2019年2月号~3月号、「カドカワノベル」2020年1月号~11月号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
謎自体は特に驚くほどのものでもないが、時代小説に中で語られるミステリーは興味をそそられた。荒木村重は謎が多いが、よく知られた人物で、わかっている史実もあるなかでの謎解きは面白い。
村重は、勇敢で真面目な部下を多く持っていたが、対等に議論できる部下はおらず、牢の中の、敵方で策にかからぬように注意する必要がある黒田官兵衛に頼らざるを得なかったという設定も面白さを増している。
以下、メモ。
大名と国衆(武士)の関係、戦闘に用いられた武器(文芸評論家・末国善己による書評)(簡略化しました)
国大名は独裁者でなく、小さな国を持つ国衆の代表に過ぎなかった。国衆は起請文(誓約書)を交わし、人質を出して戦国大名と盟約を結び、領国の自治権を認めてもらう代わりに戦時には兵を出す約束をした。したがって、大名は国衆が離反しないように、国衆への気配りは欠かせなかった。
本作中でも、国衆は村重の軍略を聞き勝利できると思い、村重に従っている。ただ国衆は不利になれば寝返るので、村重は裏切りを早期発見しようと、毎日のように軍議を開いて状況を報告している。
戦国時代の武器は、刀ではなく、確実に敵の鎧が貫ける鑓(やり)、弓、鉄砲が主要な武器だった。集団戦闘に足軽が使う三間鑓は、約5.45メートル)もあった。弓は連射が簡単なので鉄砲より重宝された。