熊木淳著『フィクションのなかの警察 目にはみえない「組織」とそこで働く「個人」』(2024年8月5日笠間書店発行)を読んだ。
日本の警察小説において、警察の描かれ方はどう変化してきたのか?
ドラマ・映画など映像化されてきた警察小説の歴史…
事件は「現場」だけで起きてるんじゃない!!
日本の警察小説において、警察という組織の描き方は大きく変化した。
1990年代後半、横山秀夫の出現をさかいに、警察小説は多様化し、様々な警察組織の在り方を描くようになり、それらはドラマやアニメなどにも波及していった。
本書では、横山秀夫の作品を出発点として、警察小説における冤罪というテーマ、2000年代以降出現した公安警察を舞台とした公安小説、そこから派生した監察部門を描いた小説を扱うことで、現代日本の警察小説の全体像を浮かび上がらせる。
●強烈な個性を持つ刑事はなぜ描かれなくなったのか?
●冤罪はなぜ起こるのか?
●公安警察官が組織に歯向かう理由とは?
●組織への帰属意識はどのように生まれるのか?
日本の警察小説において、警察の描かれ方はどう変化してきたのか?
『震度0』『死亡推定時刻』『外事警察』『禁猟区』……多くの作品がドラマ・映画など映像化されてきた警察小説の歴史を紐解く論考。
下記のような方へおすすめ
○警察ドラマや映画、小説などが好き
○警察小説を書いている/書きたい
○文芸批評や表象文化論に興味がある
警察関係者も必読! 警察小説・ドラマ・映画がよりわかり、楽しめる文芸批評!
警察小説の歴史は、小説の中での警察組織の対象が、刑事部だけでなく、公安部、監察と広がっていき、同時に組織間の対立、組織悪の謎、などと深みを増して、より広範に、より深化してきた。
第一章 組織と負荷――横山秀夫
「警視庁」には、警視総監と副総監のもと、「総務部」「警務部(人事(監察))」「交通部」「警備部(機動隊等)」「地域部」「公安部(公安・外事)」「刑事部(捜査1~3課・鑑識課)」「生活安全部(少年事件等)」「組織犯罪対策部」「犯罪抑止対策本部」の各部と「警察学校」「方面本部」「102の警察署」がある。(警視庁 組織について)
基本的に、自治体警察の本部長(トップ)・警務部長(人事・会計トップ)は警察庁キャリアの国家公務員の席で、警備部長は警察庁準キャリアの席、刑事部長・生活安全部長・交通部長は地方採用のノンキャリアの席だ。しかし、実際の人事実務をまとめるのは地元ノンキャリアの警務課長であり、キャリアは2年で異動していってしまう。
警察組織の記述に初めて本格的に取り組んだのが横山秀夫だ。
第二章 運命から「あざなえる縄へ」――冤罪小説
冤罪をいかに描くかによって、警察組織のありようを浮かび上がらせることができる。
第三章 刑事小説のオルタナティブ――公安小説
刑事は事件が起こってから動くが、公安は事件が起こる前にすでに動いている。証拠を積み上げて犯人を特定していく刑事部捜査と違い、公安部はある程度見込みで犯人に目星をつけた後、徹底的な視察・内偵で証拠を積み上げる。時には証拠をでっちあげてもテロを防ぐ。
第四章 問われる帰属――監察小説
監察(監督査察)は、警察内部で不祥事などが発生した場合、取り締まりや調査などを行い、いわば警察内スパイとも言える。公安警察と関りが強い。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
警察小説のファンには、対象となる警察組織を拡大することで発展してきたその流れが良く分かり、なるほどと感心するかも。数多くの警察小説が登場するのも楽しみだ。
警察小説に対しての横山秀夫の素晴らしい貢献については、納得だ。
直接、警察組織の説明をした方がわかりやすいだろうが、この本では、あくまで警察小説の中での警察機構の説明に限定されているので、間接的でわかりにくいこともある。
様々な警察小説の解説が語られるが、警察組織に関係する部分に注力しており、登場人物のキャラ、話の筋などには触れていない場合が多く、各小説の紹介、批評としてはもどかしい。
熊木淳(くまき・あつし)
獨協大学外国語学部フランス語学科准教授。専門はフランス文学。
主な著書に『アントナン・アルトー 自我の変容――〈思考の不可能性〉から〈詩への反抗〉へ』(水声社、2014年)、『戦後フランスの前衛たち――言葉とイメージの実験史』(水声社、2023年、分担執筆)など。