麻布競馬場著『令和元年の人生ゲーム』(2024年2月25日文藝春秋発行)を読んだ。
「まだ人生に、本気になってるんですか?」
この新人、平成の落ちこぼれか、令和の革命家か――。
「クビにならない最低限の仕事をして、毎日定時で上がって、そうですね、皇居ランでもしたいと思ってます」
慶應の意識高いビジコンサークルで、
働き方改革中のキラキラメガベンチャーで、
「正義」に満ちたZ世代シェアハウスで、
クラフトビールが売りのコミュニティ型銭湯で……
”意識の高い”若者たちのなかにいて、ひとり「何もしない」沼田くん。
彼はなぜ、22歳にして窓際族を決め込んでいるのか?
2021年にTwitterに小説の投稿を始めて以降、瞬く間に「タワマン文学」旋風を巻き起こした麻布競馬場。
デビュー作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』のスマッシュヒットを受けて、
麻布競馬場が第2作のテーマに選んだものは「Z世代の生き方」。
新社会人になるころには自分の可能性を知りすぎてしまった令和日本の「賢すぎる」若者たち。
そんな「Z世代のリアル」を、麻布競馬場は驚異の解像度で詳らかに。
20代からは「共感しすぎて悶絶した」の声があがる一方で、
部下への接し方に持ち悩みの尽きない方々からは「最強のZ世代の取扱説明書だ!」とも。
「あまりにリアル! あまりに面白い!」と、熱狂者続出中の問題作。
平成の終わりから令和の初めに早稲田、慶応などに進学した「Z世代」の若者が、学生、就活、社会人となっていく姿、その本音を描く群像劇。
語り手が違う4話すべてに、ひとりだけ何もしないで窓際族を決め込む沼田を登場させ、周りの意識の高い”若者たちの変化していく生き様を浮き彫りにしていく。
第一話 平成28年 ⦅2016年⦆
慶応の日吉キャンパスの1,2年生が主体で活動する「イグナイト」は、企業から協賛金を集め、大学生が持ち寄ったビジネスプランを競わせるビジネスコンテスト(ビジコン)を運営するサークル。
代表の吉原は真面目で熱く、イケメンの2年生。高校生で起業し有名になり、失敗したが、人気がある。
同じ2年生の沼田は吉原を不真面目な奴と言い、慶大生の僕もやがて、吉原は根は善人だが、借りた言葉で語るだけの人とわかってしまう。
第二話 平成31年 ⦅2019年⦆
ベンチャー企業立ち上げ成功者の宇治田社長の人材系最大手の「パーソンズエージェント」へ、2019年早稲田を出て入社した私はバイト営業部でお客廻りに精を出す。
営業部配属のエネルギー溢れる栗林、美人で可愛い由衣夏、総務部の沼田などが皇居ラングループに参加する。
入社式で総務部に配属されて最低限の仕事をして定時で帰りたいと宣言した沼田はエレベーターを効率化するプロジェクトで要領よく成功し、名を上げる。
第三話 令和4年 ⦅2022年⦆
僕は鉄道会社7年目で池尻大橋の大学生向け大型シェアハウス「クロスポイント」のチューターになった。沼田は「パーソンズ」から出向し、チューターになっていたが、何もしない。入居者は地域猫保護活動に精を出すが……。
第四話 令和5年 ⦅2023年⦆
高円寺の老舗銭湯「杉乃湯」は、乃木寛人4代目オーナーがクラフトビールを売ったりして、カルチャー感度の高い若者たちに評価されていた。寛人の隣には、パーソンズを辞めたので「クロスポイント」を出た沼田が居た。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの? 最大は五つ星)
Z世代の中で、学歴が高く意識高い系の若者が、自分の可能性を早く悟りすぎて、白けながら、競争世代なので本能的になんとか頑張っていると、私には見える。
何がZ世代だ! 新人類と呼ばれたかつての若者だって、今はただの中年になってしまっていると、昔昔、革命必至と思っていたお爺さんは思うのだ。
小説としては未熟だ。
人物造形が単純すぎ、面倒くさい男同士の腹の探り合いばかりで、うんざり。文章が論文のように硬すぎる。心の動きをいちいち語らないで、読者に思わせるようにしろ!
麻布競馬場(あざぶ・けいばじょう)
1991年生まれ。慶應義塾大学卒。会社員の傍らの覆面作家。
2021年からTwitterに投稿していた小説が「タワマン文学」として話題になる。
2022年9月、これまで発表した小説の中から20作品を収録した短編集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』を刊行し、デビュー。
2024年、本書『令和元年の人生ゲーム』で第171回直木賞候補