江国香織著『川のある街』(2024年2月28日朝日新聞出版発行)を読んだ。
はかなく移りゆく濃密な生の営み。
人生の三つの〈時間〉を川の流れる三つの〈場所〉から描く、
生きとし生けるものを温かく包みこむ慈愛の物語。
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ひとが暮らすところには、いつも川が流れている。
両親の離婚によって母親の実家近くに暮らしはじめた望子。そのマンションの部屋からは郊外を流れる大きな川が見える。父親との面会、新しくできた友達。望子の目に映る景色と彼女の成長を活写した「川のある街」。
河口近くの市街地を根城とするカラスたち、結婚相手の家族に会うため北陸の地方都市にやってきた麻美、出産を控える三人の妊婦……。閑散とした街に住まうひとびとの地縁と鳥たちの生態を同じ地平で描く「川のある街 Ⅱ」。
四十年以上も前に運河の張りめぐらされたヨーロッパの街に移住した芙美子。認知症が進行するなか鮮やかに思い出されるのは、今は亡き愛する希子との生活だ。水の都を舞台に、薄れ、霞み、消えゆく記憶のありようをとらえた「川のある街 Ⅲ」。
〈場所〉と〈時間〉と〈生〉を描いた三編を収録。
「川のある街」
両親の離婚によって母親・多々良和佳の実家近くに暮らしはじめた小3の望子(もちこ)。そのマンションの部屋からは郊外を流れる大きな川が見える。
父親(近藤さん)との面会。新しくできた友達・美津喜ちゃんとの幼い会話、大人たちの話から望子が感じる大人の思い。子供の目に映る世界の姿、その成長と変化。
「川のある街 Ⅱ」
河口近くの民家と田んぼとお地蔵さんばかりの市街地の話。街に住まう複数のカラスの生態、生活が具体的に描かれる。出産のため病室で一緒の3人の妊婦、安静が必要な魚住夏子、弟・晴彦の元カノを応援する菊村さつき、19歳の翔子。集団下校の赤松健吾は、夏子の娘・真凛を気遣いながら帰る。健吾は伯父のやっちゃんが大好きだ。結婚する晴彦の家族に会うため北陸の地方都市にやってきた麻美は街を迷いながらさまよう。
田舎の街に住む地縁でつながる人々と、複数のカラスたちの生態をわずかに絡ませて描く。
「川のある街 Ⅲ」
40年以上も前に運河の張りめぐらされたヨーロッパの街(オランダ)に移住した芙美子。認知症が進行するなかで鮮やかに思い出すのは亡き希子(のぞみこ)との愛の生活だ。芙美子は大学教師の職を捨て、若い事務員だった希子と日本を飛び出した勇気と決断の人だった。高齢で一人暮らしとなり、様子がおかしくなり、はるばるやってきた姪の澪(みお)が、父から頼まれて日本へ帰国を勧めようとするが……。
時の流れにより、無残に容姿は変わって、記憶は薄れて途切れ途切れになっていくが、積み重ねた愛は根こそぎ消されることはない。
初出:「小説トリッパ―」2021年秋季号、2022年夏季号、2023年秋季号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
幼い女の子の視点、カラスの視点、認知症の人の視点と見事に書き分けている。繊細な心理の揺らぎを見事に描写。
時代に先立って、完全に自立し、女性同士で日本を飛び出したカッコ良い芙美子の、年取った姿が痛ましい。しかし、それでも自立し、戦おうとする姿に敬意を表したい。
江國さんは会話の描写が上手い。会話でその人の性格が浮き彫りになるし、子供の会話も自然で、かつ子供なりに考えていることを表現できている。カラスの独り言には感心するばかりだが、実際に的確なのかは不明。まあ小説なので、読む人にいかにもと思われれば成功なのだろう。
江國香織が何かに以下のようなことを書いていた。(2006年5月25日の私のブログより)
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最近の若い人がどんなことを話しているのか知るため、電車に乗って話している女子高校生の傍にじっと立って聞いていることがある。たまには男子もと、二人の男子高校生の傍で話を聞こうと立った。しかし、何もしゃべらない。数十分互いに何も話さずそのままで、下りてゆく間際に一人が、「腹減ったな」と言い、もう一人が「ウン」と言ったきりだった。
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