hiyamizu's blog

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安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』を読む

2024年11月09日 | 読書2

 

安壇美緒著『ラブカは静かに弓を持つ』(2022年5月10日集英社発行)を読んだ。

 

集英社による内容紹介

少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。
師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……

想像を超えた感動へ読者を誘う、心震える“スパイ×音楽”小説!
【第6回未来屋小説大賞受賞】
【第25回大藪春彦賞受賞】
【第20回本屋大賞第2位】

 

タイトルにある「ラブカ」は、妊娠期間が3年半あるという深海ザメの一種。滞在先で長期間息をひそめるスパイのイメージからタイトルに採用。

 

 

全日本音楽著作権連盟、通称・全著連の職員である25歳の橘樹(たちばな・いつき)は真面目で孤独、子供の頃の事件のせいで、不眠に悩まされ、心療内科へ通っている。資料部へ異動した彼は、新しい上司・塩坪から地下の資料室に呼び出され、「君、チェロが弾けるんだってね?」と聞かれる。塩坪は、5歳から13歳までチェロを習っていた樹に「君にミカサ音楽教室への潜入調査をお願いしたい」。2年間、素性を隠して業界最大手の音楽教室でレッスンを受け、著作権が及ぶ楽曲が教室で演奏されている証拠を集めてほしい、と……。

 

そこで、樹は東京・世田谷区二子玉川にあるミカサ音楽教室に、身分を偽って週一で通い、ハンガリー国立リスト音楽院卒業のチェロ講師・浅葉に学ぶことになる。ボールペン型の録音機を胸に挿した樹が緊張しながら教室の中に入ると、卓越した技術を持ちながら、気楽な調子で話す浅葉がいた。

 

こんな風に、スパイ×音楽の小説が始まり、他人と関りを避け傾向にある橘は、問題なく潜入踏査できると当初は考えていたが、思いもかけず音楽に、チェロに入れ込んでしまい、潜入先の先生の浅葉や他の生徒たちとの交流も心地よく、トラウマから解放されようとすると共に、スパイであることに心が重くなっていく。

そして、……。

 

著者は、「集英社文芸ステーション」のインタビューで本作についてこう答えている。

音楽の著作権を管理する団体の職員が、音楽教室の演奏実態の調査のために一般客を装って覆面調査した。そして、その職員が裁判で調査内容を証言したという、実際にあった事件です。*1

 

注*1:音楽教室のレッスンでの演奏に対する音楽著作権使用料の支払いを巡り、ヤマハ音楽振興会など音楽教室側と日本音楽著作権協会(JASRAC)が争っていた訴訟で、最高裁判所…は2022年10月24日、JASRACの上告を退ける判決を言い渡した。これにより…教師による演奏のみが…音楽教室側に音楽著作権使用料の支払い義務が生じ、生徒の演奏については生じないとする判断が確定した。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

幼い時の事件によるトラウマで音楽を遠ざけていて、コミュ障でもある橘が、浅葉の演奏や音楽に対する心に、抑えていたチェロへの愛が溶け出てくる。さらに、音楽を通じての仲間との触れ合いに心和んでいく。しかし一方では、仲間を裏切るスパイであることの重さが増して行くことで心が引き裂かれる。
なかなかの設定で、よく書けており、どんどん読み進めていける。

 

ただ、全体として、文、表現、内容に重みがなく、深みはない。一概に悪いとは言えないのだが、このような軽い小説が今後流行っていくのだろうか? お爺さんには、高校生向けのヤングアダルトではないかと思えてしまう。

 

安壇美緒 (あだん・みお)

1986年北海道生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。

2017年『天龍院亜希子の日記』で第30回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。

2022年『ラブカは静かに弓を持つ』で第6回未来屋小説大賞、2023年同作で第25回大藪春彦賞、第20回本屋大賞第2位を受賞。

他に、北海道の女子校を舞台に思春期の焦燥と成長を描いた『金木犀とメテオラ』がある。

 

 

おまけ

p90に「夜のブダペストは息を呑むほどに美しい、…」とある。

2015年10月のドナウ川クルーズでの、ペスト側(東側)の絢爛な国会議事堂の夜景を思い出した。

 

 

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