hiyamizu's blog

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米澤穂信「ボトルネック」を読む

2010年07月30日 | 読書2
米澤穂信著「ボトルネック」2006年8月、新潮社発行、を読んだ。

表紙裏にはこうある。
恋人を弔うため東尋坊に来ていた僕は、強い眩暈に襲われ、そのまま崖下へ落ちてしまった。―はずだった。ところが、気づけば見慣れた金沢の街中にいる。不可解な想いを胸に自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられた。どうやらここは、「僕の産まれなかった世界」らしい。


パラレルワールドに迷いこむ話で、自分のいた世界と存在しなかった世界の違いを次々と探っていき、そこから秘密が明らかになっていく。この部分は興味を惹かれる。
ただ、出だしから好きな人が死に、植物状態の兄も亡くなり、父と母には別に恋人がいるという暗く暗い話が始まる。しかも、主人公は高校1年生なのだが、感情を無くしていて、しょぼくれた中年男のようにまったく覇気がない。

姉が脳天気で救われるし、舞台は、米澤さんが大学時代を過ごした金沢市内で、多少知っている道なども出てきて暗い空の北陸の雰囲気がよく出ている。



米澤 穂信(よねざわ ほのぶ)1978年岐阜県生まれ。岐阜県立斐太高等学校、金沢大学文学部卒業。大学卒業後も、2年間だけという約束で書店員をしながら執筆を続ける。
2001年、『氷菓』で第5回角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)受賞てデビュー。
その他、『遠まわりする雛』『さよなら妖精』『春期限定いちごタルト事件』『愚者のエンドロール』など。
「このミステリーがすごい! 2010年度版」で作家別投票第1位を獲得。09年度版の第1位は道尾秀介氏。



私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

自分が生れず代わりに生まれた姉の世界が、自分のいた世界よりすべての面で良い状態になっていることに気づく。家庭は悲惨で、すべてに消極的で、なんでもそのまま受け入れてしまう高校1年生が、「自分なんて生まれてこなければよかった」とどんどん追いつめられる話だ。
といってもめっぽう暗いわけではなく、自分が存在した世界としなかった世界が徐々に比較され、姉や好きだった彼女の謎が明らかになっていくミステリアスな部分は面白い。

ネタバレとも言えないが、以下ラストシーンに触れるので、白文字とする。
父が、母が、そして兄がどうしようもないと思っていたのに、実は自分がボトルネックだったという話では、やりきれない。
ラストで2つの道が示され、結論は読者に委ねられるのだが、
真っ暗な海と、曲がりくねった道。それは失望のままに終わらせるか、絶望しながら続けるかの二者択一。そのどちらもが、重い罰であるように思われてならなかった。
とあくまで暗い。ただ最後に届く姉からの携帯メールに救われる。


以上

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