南杏子著『ヴァイタル・サイン』(2021年8月23日小学館発行)を読んだ。
映画「いのちの停車場」著者、最新作!
二子玉川グレース病院で看護師として働く堤素野子は、31歳になり今後のキャリアについても悩みながら忙しい日々を過ごしていた。患者に感謝されるより罵られることの方が多い職場で、休日も気が休まらない過酷なシフトをこなすが、整形外科医である恋人・翔平と束の間の時間を分かち合うことでどうにかやり過ごしていた。
あるとき素野子は休憩室のPCで、看護師と思われる「天使ダカラ」という名のツイッターアカウントを見つける。そこにはプロとして決して口にしてはならないはずの、看護師たちの本音が赤裸々に投稿されていて……。心身ともに追い詰められていく看護師たちが、行き着いた果ての景色とは。
映画「いのちの停車場」やNHK連続ドラマ「ディア・ペイシェント」など、数々の話題作を送り出してきた、現役医師でもある著者の最新作! 終末期の患者が多く入院する病棟で働く女性看護師の目を通して、医療現場の現実や限界をリアルに描いたエンタメ長編!
患者さんに、最期まで笑顔でいてほしいから--
ヴァイタル・サイン(バイタルサイン、vital signs)とは、日本語で「生命兆候」のことで、人間が「生きている」 ことを示す指標のこと。「脈拍」「血圧」「呼吸」「体温」の4つの数値を測定し、数値の経過をみることで、体がどのような状態か、医療者は判断することが可能となる。
著者は「小説丸」で本書を書いた動機を以下のように語っている。
「点滴連続中毒死事件」――横浜市の病院で二〇一八年、看護師が入院患者を殺害したとして逮捕・起訴されました。点滴の中に消毒液を入れたというのです。‥‥
小説にしようと思った一言があります。逮捕された看護師の供述とされる「自分の担当時間中に、患者さんに亡くなってほしくはなかった」という言葉でした。
看護師として働く際の厳しい状況を描き出すためには、まず日常業務をできる限りリアルに描こうと努めました。それを知ってもらうことで、事件の理解がスタートすると思ったからです。
お読みいただくと、看護師たちの仕事の辛さから目を背けたくなる場面があるかもしれません。
二子玉川グレース病院
堤素野子(つつみ・そのこ):看護師になって10年の31歳。主任補佐。桃香、小山田の教育係。ガンで闘病中の63歳の母は他の病院の看護師長だった。
桃香:大卒ナース、27歳。言葉がぞんざいで厚化粧。
小山田貴士:看護助士。29歳。引越屋から転職。
草柳美千代:看護師長。国立大卒。42歳。
田口雅江:看護主任。准看専門学校卒。45歳。
吉田久志:医師。真面目だが自分中心で不機嫌。
猿川菊一郎:素野子が担当の患者。重度のパーキンソン病。82歳。娘は霞が関の役所勤務の真紀子。
田口翔平:素野子の恋人。2歳下で、他の病院の整形外科医。
老婆心からネタバレ気味なことを以下に書きます。
あまりにも過酷な看護師の勤務の詳細が描かれていて、素野子がどうなってしまうのか、心配になる人もいるだろうが、裏表紙の爽やかな絵を見てほしい。病院屋上から街を眺める二人の看護師の絵が描かれていて、これが最後の場面です。
正看護師:厚生労働大臣が国家資格として免許を発行する。
准看護師:都道府県知事が認める。中学卒業後、准看護師養成所や看護学校で2年学習後試験に合格。
ノロ患者の耳かき一杯の吐物には10万人のノロ患者を発生させるだけのウィルスが含まれている。