新川帆立著『女の国会』(2024年4月15日幻冬舎発行)を読む。
選挙に弱い政治家は、誰かの言いなりになるしかない。
だから――。
強くなりたい。
国会のマドンナ“お嬢”が遺書を残し自殺した。
敵対する野党第一党の“憤慨おばさん”は死の真相を探りはじめる。
議員・秘書・記者の覚悟に心震える、政治×大逆転ミステリ!
野党第一党の高月馨は窮地に追い込まれた。
敵対関係にありつつも、ある法案については共闘関係にあった与党議員・朝沼侑子が自殺したのだ。
「自分の派閥のトップも説得できていなかったの? 法案を通すつもり、本当にあったの?」
死の前日の浅沼への叱責が彼女を追い詰めたのではないかと批判が集まり、謝罪と国対副委員長の辞任を迫られてしまう。
だが、長年ライバル関係を築いてきた高月には朝沼の死がどうも解せない。
朝沼の婚約者で政界のプリンス・三好顕太郎に直談判し、共に死の真相を調べることに。
秘書の沢村が原案を作り、高月が中心メンバーとなり、超党派の議連を組んで成立する見込みだった「性同一性障害者に関する法律の改正案」が提案できなくなった。
野党の高月は、周囲に議員がいる前で、与党のお嬢・朝沼に「私、憤慨しています」と抗議した。朝沼は「急に三好幹事長が反対にまわったんです」と言い、さらなる高月の追及にさめざめと泣きだした。
そして、翌々日、お嬢が死んだ。青酸カリを飲んだという。高月は四面楚歌に陥り、沢村とともにお嬢の死の謎に迫る。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
あくまで一例に過ぎないのだが、国会での法案成立への動き、脅し、取引が具体的で面白い。最後の最後の謎解きは強引で無理筋だが、それまでの話が面白いので、許そう。
痩せていて、強烈な言葉で追及する男勝りの女性議員は現実にも散見する。しかし、高月は、カラッとしたぼやき・嘆きなど真の強さを見せる。強烈な外面と内面を見事に描いた著者の腕は確かだ。権力者の男たちの中で奮闘する女性議員にエールを送ろう。
以下、私のメモ
野党・民政党
高月馨:NPO出身の衆議院議員。国対副委員長。46歳。憤慨おばさん。
沢村明美:高月の制作担当秘書。29歳
田神:幹事長。高月の育ての親。
与党・国民党
三好派:三好顕造(幹事長。83歳)、三好顕太郎(顕造の息子、42歳、朝沼の婚約者、金堂は秘書)、朝沼侑子(お嬢、ウソ泣きお嬢。46歳。父が元首相。国対副委員長)
最大派閥陽三会:諸川(首相を狙うボス)、山縣(三度目の選挙は危ない。秘書は井阪)
毎朝新聞社・政治部
明石(特オチを恐れず、特ダネを狙う記者)、和田山怜奈(明石の部下、33歳。顕太郎担当。死の直前に朝沼からのメモを受信する)
他人を脅かすときは、ニコニコ笑いながら話すのがよい。(高月)
選挙に弱い政治家は、誰かの言いなりになるしかない。たいていは極端な思想の支持団体に頼る。(高月)
駅前で毎朝元気よく挨拶をする。名前を言う。それだけだ。毎朝そこにいて、いつも頑張っている人として覚えてもらえれば良い。内容のあることを言う必要はない。
高月が次回の公認を外されそうになったとき、地元のボスとの宴会を設定し、自分は赤い着物を着て踊り、沢村にはスケベお爺に隣の席へ座らせた。結果、次回の公認に見込みが立った。
沢村は国会議事堂の池の赤い鯉を見て、高月の覚悟を知った。黒いスーツの男が行き交う国会で、いろどりのあるのは、女性議員と赤い鯉だけだ。
しばらくして、高月が沢村に深く頭を下げて宴会のことを謝った。沢村はぼそっと言った。「そういうときは、あの、ありがとうって言ってほしい、です」……。沢村が差し出した手を高月が力強く握り、照れたように笑って言った。「女の国会へようこそ」