上野千鶴子著『女ぎらい -ニッポンのミソジニー』2010年10月紀伊國屋書店発行、を読んだ。
ミソジニー misogynyとは、男性にとっては「女性嫌悪」(著者によれば「女性蔑視」で、女性にとっては「自己嫌悪」)だ。
最近は介護分野で活躍し、優しさをかいまみせる上野千鶴子さんが原点のフェニストの姿で、男性に怒りまくり激しく語る。日本社会にしっかり根を生やした「女性嫌悪」を、「非モテ」「皇室」「負け犬」「少年愛」「東電OL」「秋葉原事件」といったキーワードや、吉行淳之介や永井荷風、林真理子らの小説の中から読み解く。
いくつか抜き出してみる。
(上野さんが何で今頃、過去の人とも思える吉行淳之介にこれほどこだわり、怒りをぶつけるのか理解しにくい。彼のような考えの男性が未だ多いということなのだろうが、他の例を出したほうが良いのでは。)
女の嫉妬は、男を奪ったべつの女に向かうが、男の嫉妬は自分を裏切った女に向かう。
父は母に恥じられる「みじめな父」になり、母はその父に仕えるほか生きる道のないことで「いらだつ母」になる。・・・息子は「いらだつ母」をその窮状から救い出す期待に応えられない・・・同時に「ふがいない息子」でありつづけることが・・・母の期待に共犯的に応えることであると、・・・。
家庭のなかでもっとも弱者である娘の攻撃は、直接、強者である父や母には向かわない。弱者の攻撃はさらに弱く抵抗しない自分自身、なけなしの自分の領地、身体やセクシュアリティへの向けられる。
「ホモソーシャル」とはイヴ・セジウィックによる概念で、男性同士の性的な関係を示す「ホモセクシュアル」と区別して男性同士の「性的でない絆」を指すために用いられる。
男たちはホモソーシャル集団を形成し、自分たちだけの世界を作り上げ「おぬし、できるな」と互いに認め合い、連帯しランク付けをする。
「モテ」とは男と女の関係性を示す概念ではなく、男同士の関係性に発したものである。男は女そのものには興味がない。興味があるのは、女を〝所有〟している自分を見る男の視線だ。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
複雑な内容を読みやすく表現、説明している。とくにびっくりすることを述べているわけではないが、薄々感じていたことをはっきり言葉にしている。
久しぶりの上野さんらしい勢い良い、怒りにまけせた語り口だ。平凡な男性である私としては、そう言われれば確かにそういう面はあるなと思い、だんだん頭が下がってしまう。
「でも、そんな男に育てたのは母である女性でしょ」と言いたくなる。もちろん怖くて、直接上野さんにそんなこと言えるわけありませんが。でも彼女も言っている。「家父長制とは、自分の股から生まれた息子を、自分自身を侮蔑すべく育てあげるシステムのことである。」
目次
1.「女好きの男」のミソジニー
ミソジニーとは何か/吉行淳之介と永井荷風/女から逃走する男たち
2.ホモソーシャル・ホモフォビア・ミソジニー
男の値打ちは何で決まるか/男の連帯の成立条件/男は性について語ってきたか
3. 性の二重基準と女の分断支配――「聖女」と「娼婦」という他者化
ジェンダー・人種・階級/「聖女」と「娼婦」の分断支配/性の二重基準のディレンマ
4.「非モテ」のミソジニー
「性的弱者」論の罠/性の自由市場/秋葉原事件と「非モテ」/格差婚の末路/「男性保護法」の反動性/「男になる」ための条件
5.児童性虐待者のミソジニー
「欲望問題」/公的セックス・私的セックス/児童性虐待者たち/ミソジニーとホモフォビア
6.皇室のミソジニー
男児誕生/皇室はいつからミソジニーになったか/記紀の神話論理学/皇族と人権
7.春画のミソジニー
暴力・権力・金力/快楽による支配/ファロセントリズム/春画研究ことはじめ/男根フェティシズム/男無用の快楽?
8.近代のミソジニー
「母」の文化理想/「ふがいない息子」と「不機嫌な娘」/「自責する娘」の登場/近代が生んだ女のミソジニー/自己嫌悪としてのミソジニー
9.母と娘のミソジニー
反面教師としての母/母の代償/母は娘の幸せを喜ぶか/母の嫉妬/母と娘の和解
10.「父の娘」のミソジニー
家父長制の代理人としての母/「父の娘」/「誘惑者」としての娘/日本の「父の娘」/「父」への復讐/「父の娘」でも「母の娘」でもなく
9.母と娘のミソジニー
反面教師としての母/母の代償/母は娘の幸せを喜ぶか/母の嫉妬/母と娘の和解
10.「父の娘」のミソジニー
家父長制の代理人としての母/「父の娘」/「誘惑者」としての娘/日本の「父の娘」/「父」への復讐/「父の娘」でも「母の娘」でもなく
11.女子校文化とミソジニー
男の死角/女子校の値打ち再発見/女子校文化のダブルスタンダード/「姥皮」という生存戦略/ネタとベタ
12.東電OLのミソジニー
メディアの「発情」/東電OLの心の闇/男たちの解釈/二つの価値に引き裂かれる女たち/娼婦になりたい女/女が男につけた値段/「性的承認」という「動機の語彙」/売買春というビジネス/女の存在価値/女の分裂・男の背理
13.女のミソジニー/ミソジニーの女
ふたつの「例外」戦略/林真理子の立ち位置/女と女のライバル関係/コスプレする「女」/女と女の友情
14.権力のエロス化
夫婦関係のエロス化/プライヴァシーの成立/性的満足の義務?/サディコ・マゾヒズムの誕生/セクシュアリティの脱自然化/身体化された生活習慣
15. ミソジニーは超えられるか
ミソジニーの理論装置/欲望の三角形/ホモソーシャル・ホモフォビア・ミソジニー/セクシュアリティの近代/ミソジニーを超えて/男の自己嫌悪
上野千鶴子の略歴と既読本リスト