スティーヴン・キング著、田村義進訳『書くことについて』(小学館文庫キ4-1、2013年7月10日小学館発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
「われわれ三文文士の多くもまた、及ばずながら言葉に意を注ぎ、物語を紙の上に紡ぎだす技と術に心を砕いている。本書のなかで、私はいかにして『書くことについて』の技と術に通じるようになったか、いま何を知っているのか、どうやって知ったのかを、できるだけ簡潔に語ろうと思っている。テーマは私の本業であり、言葉である」(本書「前書き」より)
モダン・ホラーの巨匠が苦闘時代からベストセラー作家となるまで自らの体験に照らし合わせて綴った自伝的文章読本。『小説作法』の題名で刊行された名著の待望の新訳版。
巻末には新たに著者が2001年から2009年にかけて読んだ本ベスト80冊を掲載。
ベストセラー作家の自伝的文章読本。
- 履歴書 ドラッグとアルコール漬けの作家生活38歳までを語る半自叙伝の回想
- 道具箱 書くために必要となる基本的なスキルの開陳
- 書くことについて いいものを書くための著者独自の魔法の技
- 生きることについて 「書く」と「生きる」ためのスティーヴン・キングの人生観
補遺 その1 短篇原稿見直しの実例(第1稿と第2稿)
補遺 その2 ここ3,4年の間に強く印象に残った本のリスト100冊
補遺 その3 2001年~2009年で読んだ本のベスト80冊
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
前半の約半分は、キングの自叙伝で、彼のファンなら面白く読めるだろう。しかしファンでなくても、書くことが好きな少年が貧しいなかで、なんとか浮かび上がり、作家への道を、あれやこれやと懸命に探る話は興味を持って読めるだろう。ちなみに、米国では新人賞受賞からの作家デビューという道はないのだろうか。
後半の小説を書くコツについては、抽象論、精神論でなく、具体例を挙げて説明しているので、理解しやすい。もちろん、ミステリーやホラーとは違った恋愛物や、純文学などを書く場合は適合しない部分もあるとは思うが。
「補遺 その1」には、短篇原稿の第1稿(日本語訳)と、どのように見直したかの第2稿(第一稿の英語を訂正したものと日本語訳)が実例で示されていて、アメリカ人のプラグマティズムに感心する。
以下、私のメモ
- 小説のアイデアはどこからともなく湧いてくる。また、二つが合体して新しいものが生まれることもある。我々がすべきなのは見つけ出すことではなく、目の前に現れたときに気づくことだ。
- 気分が乗らなかったり、イメージが湧かなくなったからといって、途中で投げ出すのはご法度だ。いやでも書き続けなければならない。…そんなときに、いい仕事をしていることはけっこうあるものだ。
- 作家になりたいのなら、絶対にしなければならないことがふたつある。たくさん読み、たくさん書くことだ。私の知るかぎり、そのかわりになるものはないし、近道もない。
- 出来の悪い小説は、してはいけないことを教えてくれる(例、『マディソン郡の橋』)。逆に、『怒りの葡萄』は文体、品格ある叙述、プロットに展開、立体的な人物造形、誠実な語り口など多くのことを教えてくれる。
- できれば初稿はワン・シーズンつまり3カ月以内で仕上げたい。どんなながいものでもそうだ。一日の目標は10ページ、二千語。三か月なら18万語になる。読者が夢中になって読むのにちょうどよい長さだ。
- 週に一日は休んでもいい。だが、それ以上は駄目だ。ストーリーが間延びしてしまう。
- 仕事場に電話はない方がいい。TVやゲーム機は論外だ。窓にはカーテンをしておく。
- 小説は3つの要素からなる。ストーリーをA地点からB地点に運び、最終的にZ地点まで持って行く叙述、読者にリアリティを感じさせる描写、そして登場人物に声明を吹きこむ会話だ。プロットを練ると、ストーリーが自然に生まれなくなる。作家がしなくてはいけないのは、ストーリーに成長の場を与え、それを文字にすることだ。
- 登場人物の顔や体形や服といったものは、読者の想像に任せておけばよい。それを細々と描いたら、そこに読者が入り込む余地はなくなり、両者の相互理解のきずなは失われる。
- 1次稿は、ドアを閉めて、誰の助けも借りず(あるいは邪魔も受けず)、自分ひとりで書かなければならない。プレッシャーはあった方が良いのだ。
- 1次稿の原稿は最低6週間寝かせた方がよい。
- 1次稿の見直しは、気づいたことを片っ端からメモにとっていく。ただし、スペル・ミスは矛盾箇所の訂正といった事務的な作業の範囲内にとどめておいた方が良い。
- 素性の妖しい代名詞、説明不足箇所、副詞を削除する。ストーリーの首尾一貫性をチェック。