4月29日(火・祝)は、東京都世田谷区「玉川高島屋」で開催された「世田谷花みず木女流オープン戦」を観に行った。
冒頭、聞き手の室谷由紀女流初段が急病のため欠席、との報告があり、彼女が出ないなら帰ろう、とよほど席を立ちかけたのだが、昨年女流棋士になった飯野愛ちゃんもかわいいと思い直し、私は座り直した。
さて第1局は、中村真梨花女流二段と藤田綾女流初段の一戦である。大盤解説は森下卓九段。聞き手は中村修九段。中村九段「ムロヤです…」と遠慮気味のジョークを飛ばすが、痛々しい。ちっとも笑えない。
中村アナウンサーが対局者に意気込みを聞き、藤田女流初段の先手で対局開始となった。
▲7六歩△3四歩▲7五歩。森下九段(中村九段だったか)が「相三間飛車ですね」と断言する。果たして戦形はそうなった。
まだ序盤の無難なところなので、森下九段から電王戦の話が語られる。森下九段は3月に行われた電王戦に4番手として登場し、矢倉で好局を作ったものの、持ち時間の切迫もあって、惜敗した。
「人間とやるとですねえ、こちらの指し手にビビッてくれるわけなんですよ。だけどコンピューターにはそれがない。あれには参りました」
コンピューターに感情はない。自明のことだが、対局した当人の口から出ると、妙な実感がこもっている。
中村女流二段は金無双。これを藤井猛九段は「文鎮囲い」といったらしい(森下九段)。藤田女流初段は美濃囲いに構える。最近は相振り飛車でも、美濃囲いが増えているようだ。
中村女流二段は盤に覆いかぶさるようにして考えている。藤田女流初段は自然体だ。
大盤解説では、対局中のボヤキについて語られる。
最近は対局中にボヤく人はいなくなりました…の中村九段の言に、森下九段が異を唱える。けっこういまでも、ボヤく棋士はいるように思う、と言う。羽生善治三冠も、けっこうボヤくらしい。ただしその逆もあって、郷田真隆九段などは、形勢のいいときにボヤくらしい。
どうでもいい話だが、私も対局中ボヤくことがあるが、それはいいと思った局面から逆転されたときが多い。ちなみに、自分がいいと思っているときは、大声で誰かに話しかける。
盤上では、双方の飛車がちょこちょこ動いている。森下九段「電王戦の事前説明会のときに聞いたんですけど、コンピューターは飛車を取られないよう、逃げ回るらしいんです」。
やはり飛車を大事にするのがよいようだ。
中村女流二段が歩を突き捨て、仕掛ける。森下九段の名言に「駒得は裏切らない」があるが、ここでもその話題が出る。駒を損すると、相手にそれが渡るので、差し引き2枚分の損になる。たとえば銀を1枚損すれば、銀の数は1対3になる。この理屈が、意外に浸透されていないという。私はなるほどと唸るばかりである。
そんな解説はともかく、私は両対局者を鑑賞したいのだが、人垣が邪魔で、見えにくい。
世田谷花みず木将棋女子オープン戦は回を重ねること7回目で、そのほとんどがここ玉川高島屋で行われている。よって、毎年いくつかの改善点が挙げられるはずだ。
しかしこの、観客の頭部によって、両対局者と大盤の一部が見えづらいということは、改善されていない。まあ土台部分を高くすればいいのだろうが、そうならないのは、予算の問題もあるのだろう。何しろこのイベントは、ありがたいことに入場無料である。それなのに観客が文句を言ってはいけない。
中村女流二段、ついに端攻めを決行した。△1六歩▲同歩に△1八歩▲同香△1七歩。これで中村女流二段は歩切れになり、歩の数は6:12になったから、もう行くところまで行くしかない。
中村女流二段は巧妙に端を破って、優勢になった。さらに1七のと金を、△2八とと入る。
これを▲同玉は△1八飛成が厳しいから、藤田女流初段は泣きの▲4八玉だが、このとき中村九段が「うっ…」と下を向いた。
たとえ飛車に成られても、このと金から逃げるようじゃダメ、とその顔がいっている。
藤田女流初段、▲7四歩。
中村九段「藤田さん、アヤをつけに行きましたね。(名前が)綾だけに」
豊川孝弘七段を彷彿とさせるオヤジギャクだが、不発気味である。
藤田女流初段、懸命に反撃するが、中村女流二段は的確に先手玉を追いつめる。駒得しつつ優位を拡げるという、理想的な展開である。最後は遊び気味だった角を切って、鮮やかに藤田玉を詰め上げた。
と、ここで観客から自然と拍手が起こるのだが、今回は大盤解説が熱を帯びて、そのタイミングを逸してしまった。
本局はちょっと、藤田女流初段が力を出し切れなかった。ただ厳しい言い方になるが、美濃囲いへの端攻めは相手方の常套手段であり、それで簡単に潰されてしまうのは解せない。攻めのパターンは決まっているのだから、ある程度の対処法は用意しておくべきだった。
本局でいえば、△2五桂と跳ねてきたとき、▲2六歩~▲2七銀と、上部を厚くするのがよかったようだ。
でもまあ、藤田女流初段が愛らしかったので、よしとしよう。
続いて2局目。飯野愛女流2級対加藤桃子奨励会1級の対戦である。
会場でこの組み合わせを知らされたとき、決勝進出のふたりは容易に予想できた。すなわち、中村女流二段と、加藤奨励会1級である。このふたりが決勝戦を戦い、激戦の末、加藤奨励会1級が勝つ。と、この予想は自然であろう。
本局も、加藤奨励会1級が簡単に勝つと思っていた。
ところが…。
(つづく)
冒頭、聞き手の室谷由紀女流初段が急病のため欠席、との報告があり、彼女が出ないなら帰ろう、とよほど席を立ちかけたのだが、昨年女流棋士になった飯野愛ちゃんもかわいいと思い直し、私は座り直した。
さて第1局は、中村真梨花女流二段と藤田綾女流初段の一戦である。大盤解説は森下卓九段。聞き手は中村修九段。中村九段「ムロヤです…」と遠慮気味のジョークを飛ばすが、痛々しい。ちっとも笑えない。
中村アナウンサーが対局者に意気込みを聞き、藤田女流初段の先手で対局開始となった。
▲7六歩△3四歩▲7五歩。森下九段(中村九段だったか)が「相三間飛車ですね」と断言する。果たして戦形はそうなった。
まだ序盤の無難なところなので、森下九段から電王戦の話が語られる。森下九段は3月に行われた電王戦に4番手として登場し、矢倉で好局を作ったものの、持ち時間の切迫もあって、惜敗した。
「人間とやるとですねえ、こちらの指し手にビビッてくれるわけなんですよ。だけどコンピューターにはそれがない。あれには参りました」
コンピューターに感情はない。自明のことだが、対局した当人の口から出ると、妙な実感がこもっている。
中村女流二段は金無双。これを藤井猛九段は「文鎮囲い」といったらしい(森下九段)。藤田女流初段は美濃囲いに構える。最近は相振り飛車でも、美濃囲いが増えているようだ。
中村女流二段は盤に覆いかぶさるようにして考えている。藤田女流初段は自然体だ。
大盤解説では、対局中のボヤキについて語られる。
最近は対局中にボヤく人はいなくなりました…の中村九段の言に、森下九段が異を唱える。けっこういまでも、ボヤく棋士はいるように思う、と言う。羽生善治三冠も、けっこうボヤくらしい。ただしその逆もあって、郷田真隆九段などは、形勢のいいときにボヤくらしい。
どうでもいい話だが、私も対局中ボヤくことがあるが、それはいいと思った局面から逆転されたときが多い。ちなみに、自分がいいと思っているときは、大声で誰かに話しかける。
盤上では、双方の飛車がちょこちょこ動いている。森下九段「電王戦の事前説明会のときに聞いたんですけど、コンピューターは飛車を取られないよう、逃げ回るらしいんです」。
やはり飛車を大事にするのがよいようだ。
中村女流二段が歩を突き捨て、仕掛ける。森下九段の名言に「駒得は裏切らない」があるが、ここでもその話題が出る。駒を損すると、相手にそれが渡るので、差し引き2枚分の損になる。たとえば銀を1枚損すれば、銀の数は1対3になる。この理屈が、意外に浸透されていないという。私はなるほどと唸るばかりである。
そんな解説はともかく、私は両対局者を鑑賞したいのだが、人垣が邪魔で、見えにくい。
世田谷花みず木将棋女子オープン戦は回を重ねること7回目で、そのほとんどがここ玉川高島屋で行われている。よって、毎年いくつかの改善点が挙げられるはずだ。
しかしこの、観客の頭部によって、両対局者と大盤の一部が見えづらいということは、改善されていない。まあ土台部分を高くすればいいのだろうが、そうならないのは、予算の問題もあるのだろう。何しろこのイベントは、ありがたいことに入場無料である。それなのに観客が文句を言ってはいけない。
中村女流二段、ついに端攻めを決行した。△1六歩▲同歩に△1八歩▲同香△1七歩。これで中村女流二段は歩切れになり、歩の数は6:12になったから、もう行くところまで行くしかない。
中村女流二段は巧妙に端を破って、優勢になった。さらに1七のと金を、△2八とと入る。
これを▲同玉は△1八飛成が厳しいから、藤田女流初段は泣きの▲4八玉だが、このとき中村九段が「うっ…」と下を向いた。
たとえ飛車に成られても、このと金から逃げるようじゃダメ、とその顔がいっている。
藤田女流初段、▲7四歩。
中村九段「藤田さん、アヤをつけに行きましたね。(名前が)綾だけに」
豊川孝弘七段を彷彿とさせるオヤジギャクだが、不発気味である。
藤田女流初段、懸命に反撃するが、中村女流二段は的確に先手玉を追いつめる。駒得しつつ優位を拡げるという、理想的な展開である。最後は遊び気味だった角を切って、鮮やかに藤田玉を詰め上げた。
と、ここで観客から自然と拍手が起こるのだが、今回は大盤解説が熱を帯びて、そのタイミングを逸してしまった。
本局はちょっと、藤田女流初段が力を出し切れなかった。ただ厳しい言い方になるが、美濃囲いへの端攻めは相手方の常套手段であり、それで簡単に潰されてしまうのは解せない。攻めのパターンは決まっているのだから、ある程度の対処法は用意しておくべきだった。
本局でいえば、△2五桂と跳ねてきたとき、▲2六歩~▲2七銀と、上部を厚くするのがよかったようだ。
でもまあ、藤田女流初段が愛らしかったので、よしとしよう。
続いて2局目。飯野愛女流2級対加藤桃子奨励会1級の対戦である。
会場でこの組み合わせを知らされたとき、決勝進出のふたりは容易に予想できた。すなわち、中村女流二段と、加藤奨励会1級である。このふたりが決勝戦を戦い、激戦の末、加藤奨励会1級が勝つ。と、この予想は自然であろう。
本局も、加藤奨励会1級が簡単に勝つと思っていた。
ところが…。
(つづく)