9日は第79期順位戦B級2組4回戦が行われた。中でもピカ一の注目が藤井聡太二冠VS谷川浩司九段戦だ。
「古豪VS新鋭」の対決は囲碁将棋ならではで、かつては大山康晴十五世名人VS羽生善治九段の「47歳差対決」が注目のカードだった。令和では羽生善治九段VS藤井二冠戦が想起されるが、「32歳差」はやや年齢差が短い。そこで「40歳差」である、谷川九段VS藤井二冠戦が、令和最高のゴールデンカードとなる。谷川九段は前期に不覚の降級を喫したので、順位戦はB級2組で、その対決が実現した。
なお両者は昨年9月に王将戦二次予選で顔が合い、藤井七段(当時)が勝った。順位戦はここまで藤井二冠3勝、谷川九段1勝2敗である。よって本局も藤井二冠の勝利濃厚だがそこはそれ、谷川九段が往年の切れ味を見せてくれるのではないか、という淡い期待はあった。
私はABEMAを拝見する。公式戦を自宅で鑑賞できるとは、まったくいい時代になったものだ。ABEMAさん、ありがとう。
将棋は谷川九段の先手で、角換わりとなった。藤井二冠はもちろん上座。高校生が十七世名人相手に上座へ座る気持ちはどうだろう。私なら雑念が入りそうだが、藤井二冠は盤上没我であろう。
将棋は順位戦らしく両者熟考を重ね、藤井二冠やや有利のまま夜戦に入った。ただ谷川九段は早投げが多い。しかもアマ同士なら形勢不明の場面も多いから、本局はそれだけは勘弁してほしいと願っていた。


第1図はその最終盤で、藤井二冠が74手目△4七角成と金を取ったところ。
局面がプレイバックするが、第2図は67手目、谷川九段が▲4六歩と銀取りに打ったところ。これは最善手ではないが、こう打ちたくなるところである。対して藤井二冠は△3九銀と打った。そこで▲4九飛が最善だったらしいが、谷川九段は▲1八飛と横に逃げた。これが疑問で、藤井二冠に形勢の針が触れた。
ところがそこで藤井二冠が△2九角と飛車金取りに打った構想が疑問で、形勢の針は縮まった。
さらに▲5五角△3一玉。これも△1二玉が正着、とABEMA AIは教える。そして目障りな桂を外す▲6五銀。これで先手玉はずいぶん動きが楽になり、形勢は互角近くに戻った。この振り幅の大きさが、終盤戦の醍醐味ともいえる。そして藤井二冠が金を取り、第1図になったというわけである。

ここでAIの推奨は▲7六銀だった。取られそうな銀を引き自陣を引き締める、味のよさそうな手だ。こうなると後手は△3九銀と△4五銀の存在が重い。
ところが実戦は▲4五歩。以下△6九金まで、谷川九段の投了となった。

突然の終局に、私は口あんぐりである。これには▲7七玉の一手だが△6五馬が絶好で、以下▲1一角成△7六銀▲8八玉△8六歩▲同歩△同飛(参考図)まで後手の勝ちとなる。

だから投了はやむを得ないのだが、▲4五歩と指して△6九金で投了するくらいなら、なぜほかの手を模索しなかったのだろう、と思う。この時点で谷川九段は、まだ15分くらい持ち時間を残していたのだ。
ただまあ、谷川九段の気持ちは分かるのである。長いこと不利な時間が続いて疲弊していたうえ、相手はスーパーマシンの藤井二冠である。谷川九段が考慮中に勝負を諦め、形作りを考えていたとしてもおかしくはない。
それに▲4六歩と打った以上、銀を取りたくなる。前に指した手を継承する、は将棋の心得でもあるからだ。また▲6五銀も、桂を食いちぎった時点で憤死を覚悟している。相手の銀を取るか、自分の銀を守るかの二択なら、駒台に銀を載せたくなるではないか。さらに先手は▲7七玉と逃げ越す形になっているのだ。だが本譜は△6九金~△6五馬がメガトン級に厳しく、谷川九段は無念の投了となったわけだった。
さてこれで、谷川九段は藤井二冠に0勝2敗となった。谷川九段は大山十五世名人に14勝(+2不戦勝)6敗だったが、最初の4局は大山十五世名人の3勝1敗だった。谷川九段も、藤井二冠に負け続けるわけにはいくまい。近い将来に初勝利を期待したいところである。
「古豪VS新鋭」の対決は囲碁将棋ならではで、かつては大山康晴十五世名人VS羽生善治九段の「47歳差対決」が注目のカードだった。令和では羽生善治九段VS藤井二冠戦が想起されるが、「32歳差」はやや年齢差が短い。そこで「40歳差」である、谷川九段VS藤井二冠戦が、令和最高のゴールデンカードとなる。谷川九段は前期に不覚の降級を喫したので、順位戦はB級2組で、その対決が実現した。
なお両者は昨年9月に王将戦二次予選で顔が合い、藤井七段(当時)が勝った。順位戦はここまで藤井二冠3勝、谷川九段1勝2敗である。よって本局も藤井二冠の勝利濃厚だがそこはそれ、谷川九段が往年の切れ味を見せてくれるのではないか、という淡い期待はあった。
私はABEMAを拝見する。公式戦を自宅で鑑賞できるとは、まったくいい時代になったものだ。ABEMAさん、ありがとう。
将棋は谷川九段の先手で、角換わりとなった。藤井二冠はもちろん上座。高校生が十七世名人相手に上座へ座る気持ちはどうだろう。私なら雑念が入りそうだが、藤井二冠は盤上没我であろう。
将棋は順位戦らしく両者熟考を重ね、藤井二冠やや有利のまま夜戦に入った。ただ谷川九段は早投げが多い。しかもアマ同士なら形勢不明の場面も多いから、本局はそれだけは勘弁してほしいと願っていた。


第1図はその最終盤で、藤井二冠が74手目△4七角成と金を取ったところ。
局面がプレイバックするが、第2図は67手目、谷川九段が▲4六歩と銀取りに打ったところ。これは最善手ではないが、こう打ちたくなるところである。対して藤井二冠は△3九銀と打った。そこで▲4九飛が最善だったらしいが、谷川九段は▲1八飛と横に逃げた。これが疑問で、藤井二冠に形勢の針が触れた。
ところがそこで藤井二冠が△2九角と飛車金取りに打った構想が疑問で、形勢の針は縮まった。
さらに▲5五角△3一玉。これも△1二玉が正着、とABEMA AIは教える。そして目障りな桂を外す▲6五銀。これで先手玉はずいぶん動きが楽になり、形勢は互角近くに戻った。この振り幅の大きさが、終盤戦の醍醐味ともいえる。そして藤井二冠が金を取り、第1図になったというわけである。

ここでAIの推奨は▲7六銀だった。取られそうな銀を引き自陣を引き締める、味のよさそうな手だ。こうなると後手は△3九銀と△4五銀の存在が重い。
ところが実戦は▲4五歩。以下△6九金まで、谷川九段の投了となった。

突然の終局に、私は口あんぐりである。これには▲7七玉の一手だが△6五馬が絶好で、以下▲1一角成△7六銀▲8八玉△8六歩▲同歩△同飛(参考図)まで後手の勝ちとなる。

だから投了はやむを得ないのだが、▲4五歩と指して△6九金で投了するくらいなら、なぜほかの手を模索しなかったのだろう、と思う。この時点で谷川九段は、まだ15分くらい持ち時間を残していたのだ。
ただまあ、谷川九段の気持ちは分かるのである。長いこと不利な時間が続いて疲弊していたうえ、相手はスーパーマシンの藤井二冠である。谷川九段が考慮中に勝負を諦め、形作りを考えていたとしてもおかしくはない。
それに▲4六歩と打った以上、銀を取りたくなる。前に指した手を継承する、は将棋の心得でもあるからだ。また▲6五銀も、桂を食いちぎった時点で憤死を覚悟している。相手の銀を取るか、自分の銀を守るかの二択なら、駒台に銀を載せたくなるではないか。さらに先手は▲7七玉と逃げ越す形になっているのだ。だが本譜は△6九金~△6五馬がメガトン級に厳しく、谷川九段は無念の投了となったわけだった。
さてこれで、谷川九段は藤井二冠に0勝2敗となった。谷川九段は大山十五世名人に14勝(+2不戦勝)6敗だったが、最初の4局は大山十五世名人の3勝1敗だった。谷川九段も、藤井二冠に負け続けるわけにはいくまい。近い将来に初勝利を期待したいところである。