○そごう美術館『大アンコール・ワット展:壮麗なるクメール王朝の美』
http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/05/1029_angkor/
先週末で終わってしまった展覧会だが、すべり込みで見てきたので書いておく。本展は、プノンペン国立博物館が所蔵する仏像や神像、遺跡の一部であった柱や彫刻の装飾などを展示したものだ。
アンコール・ワットについては、ほとんど何も知らない。カンボジアの仏像・神像は、博物館でときどき見るので、「ああ、カンボジアの顔だな」ということは分かるが、正直に言って、あまり美形だと感じたことはない。しかし、その肉体の表現は見事だと思う。静かで満ち足りていて、「肉体」というより、哲人の「精神」が示現した姿に感じられる。
最も印象深かったのは「ジャヤバルマン7世の頭部」である(上記サイトに写真あり)。ジャヤバルマン7世は、アンコール王朝の絶頂期に君臨し、「諸王の中の王」と呼ばれた人物だというが、簡素な頭髪、太くて短い首、開いた鼻、厚く大きな唇には、強大な権力やカリスマ性を感じさせる要素はない。むしろ社会の底辺で忍耐強く暮らす階層を想起させる。しかし、下卑た印象はなく、広い額、なだらかな弧を描く眉の下で、軽く閉じた目、謎めいた微笑みは、「アジア的な高貴さ」を感じさせる(こういう言い方ってオリエンタリストかな?)。これは写実なのだろうか、それとも、ある程度の理想化を伴っているのかしら?
それから「ひざまずくプラジューナーパーラミタ(般若波羅蜜多)」という彫像。これはジャヤバルマン7世の最初の王妃ジャヤラージャデヴィーをモデルにしたものだ。王妃は仏教に帰依し、苦行のため、痩せ細って、早逝したという。確かに古代の女性像としては、異例に痩せた姿である。サンボットというスカートで大きく膨らんだ下半身に対して、はかなげな上半身は、三角フラスコのように見える(まるで近代彫刻の造形だ!)。地味なひっつめに結った髪、小さな顔は、鼻筋が目立ち、いくぶん釣り目のきつい表情で、大ぶりの唇だけが不似合いに肉感的である。解説は「(仏教に帰依することによって)自得した表情」と言うが、そうだろうか? 私には、苦悩の中で無理に作った微笑に感じられた。
たまたま、上記に取り上げたのは、精神性の強い彫像だが、写真パネルにあった「乳海攪拌」(壁面レリーフ)などは、マニエリスティックで、混沌としたパワーを感じさせる作品だった。いつか現地に行ってみたいものだ。