見もの・読みもの日記

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死者のドールハウス・中国の明器/町田市立博物館

2005-12-24 12:21:59 | 行ったもの(美術館・見仏)
○町田市立博物館『陶器が語る来世の理想郷:中国古代の暮らしと夢-建築・人・動物』

http://www.city.machida.tokyo.jp/event/shisetsubetsu/museum/museun_20041116/index.html

 中国の陶製明器(めいき=副葬品)を集めた展覧会である。と言っても、知らない人には、全くイメージが湧かないだろうけれど。

 古来、中国では人間の霊魂は不滅であり、墳墓が永遠の住まいであると考えられてた。そのため、死者が地下の世界で幸せに暮らせるよう、財宝とともに、家畜や従者、住宅や生活用品の模型が副葬された。始皇帝陵の兵馬俑は、その大規模な例であるが、一般の墳墓にも同様の習慣が見られた。中国の博物館でよく見るのは、多層の高楼に、武人や猿・鳥・犬などをくっつけたデコレーションケーキのような大型の陶器である(上記サイトの写真参照)。

 この展覧会は、それ以外に、小品がたくさん出ていて、非常におもしろかった。てのひらサイズの竈(かまど)、碾(ひきうす)、椅子、寝台、衣装だんす、井戸、厠など、ドールハウスか箱庭グッズみたいである。竈には、さまざまな形態があったことが分かって、実におもしろい。四角いバスケット型(内側に炭火を入れるのだろう)のかまどの上には、2本の棒が渡してあって、クッキーのようなものが並んでいる。何かと思ったら、蝉を焼いているのだそうだ。びっくり!

 ちなみに後漢の墳墓では、竈・井戸・厠は「必ずと言っていいほどおさめられた」3点セットだそうだ。なるほど、中国人の現世主義が躍如としている。

 犬もいるし、豚もいる。お母さんブタのお乳にむらがる子ブタたち、あるいは、牛を屠って宴会の準備を始める料理人たちのリアルなことは、海洋堂フィギュアだ。いったい、誰がこんなものを作ったのだろう、故人の家族が作ったのか、それともプロが作って売っていたのかしら?と疑問に思っていたら、ちゃんと「明器鋪(副葬品を売る店)」を模した明器があって笑った(唐代)。これを墳墓に入れておけば、万一忘れたものがあっても安心ね!(笑)

 制作年代は、後漢(A.D.25-220)がいちばん多いが、新しいものもある。明代の住居を模した大型の明器は、今でも中国の旧市街で見かける四合院そのままだった。清代には人物俑はほとんど作られなくなったそうだが、異国の商人を模した彩色俑が出ていた。本場・中国でもあまり見た記憶のない、めずらしいものだ。元代の旅団(馬数頭と馭者、仕女たち)を模したものは、彩色を施さない灰陶俑で、衣服のひだにまで神経のゆきとどいた写実主義が見事である。

 私の好きな鎮墓獣は2件。西晋の作は、うつむくユニコーンみたいである。北斉の作は、左右一対。腰を下ろし、忠実な仔犬のように、顔を上げている。展示ケースの裏に観客の姿が映るので、そこを見ると、鎮墓獣の後ろ姿が、こっちを凝視しているようで、かわいい。

 ちょっと行きにくい場所にある博物館だが、今季の展示は楽しめると思う。しかも無料。

コメント
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