付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

私的年間ベスト2011

2011-12-31 | その他フィクション
 本を読むという行為をひとことで言い表すのなら、「一期一会」というよりは「サケの放流」でしょう。面白そうと思って手に取った本でも、本当に面白く、いつまでも何度でも読み直せる本は稀少です。
 1冊でも多くの“自分の好きな本”に出会うために、いろんなジャンルのいろんな本を読んでいるわけです(ラノベのレーベル作品が多くなってきましたけどね)。

『神明解ろーどぐらす』 比嘉智康
 本当に“下校を愉しむ”ことだけが目的の高校生たちの物語。学校の門を出て、寄り道しながら、友達とおしゃべりしながら家に帰るまでの愉しさを徹底的に追求した全5作。今年完結。
 自ら選択してハーレムを築き上げ、それを守るのに命をかけた男の物語……とまとめるとなんだかなーという雰囲気になりますが、ゆるい話だけれど、主人公は熱いです。いろいろ逃げて話を長引かせるだけの主人公が多い中、鈍感だけれど、常に正面から仲間と向かい合う姿はまさしくヒーローです。
 書店の売上では既にランキング外なのが納得いかない名作。


『はたらく魔王さま!』 和ヶ原聡司
 世界征服を目前にして勇者に敗北し、異世界に逃亡した魔王サタンと、彼に付き従う悪魔大元帥たちが、六畳一間のアパートで捲土重来を期して日々を小市民的に暮らしていく物語。壮大な野望と超絶な能力を秘めながら、地道にあしもとを固めていく話は大好き。今年は3巻まで出ました。
 世界の支配からバイトの管理までマクロもミクロも網羅している魔王というのは、支配者として恐るべき存在だと思います。


『犬とハサミは使いよう』 更伊俊介
 強盗に殺されたものの犬になって甦ってしまった読書狂の高校生と、書くことが好きで好きで堪らないS趣味作家の共同生活もの。読まずに死ねるか、犬の生活篇。
 これもあまり外部のキャラが絡まずに、作家と犬の会話だけで続いている部分は面白い。他の人が絡むと、それが普通の人だと浮きすぎるし、同レベルの変態になるとイヤすぎです。


『丘ルトロジック』 耳目口司
 世界を征服するために、まずこの町のオカルト現象をすべて掌握して支配してしまおうという高校生たちの物語。
 主人公たちが正義の、あるいは善意の集団ではなく、一見して普通に見えるけれど実は異常者の集団というのが、なかなかスリリング。よくこんな話の企画が通ったなあと思います。みんな変態か犯罪者かその両方なんだもの。


『ブラック・ラグーン 罪深き魔術師の哀歌』 虚淵玄
 悪徳と暴力の街、ロアナプラに大富豪令嬢が迷い込んできた。この世間知らずの小娘にロットン“ザ・ウィザード”がかかわった瞬間から、街の殺し屋からチャイニーズ・マフィアまで巻き込んだ大騒動が始まって死屍累々。シスター・エダの腹はまっ黒。
 原作コミックのイメージままで繰り広げられる、もう1つの物語。



『それがどうしたっ』 赤井紅介
 長らく音信不通だった民俗学者の父親が連れてきた少女は悪魔だった……。
 美少女キャラの話だけれど、本質は「萌えオバQ」なんだと思います。大食らいで愛嬌のある居候が、文化的相克を乗り越え、周囲に幸せを運んでくる青春ホームコメディ。3巻完結。


『物理の先生にあやまれっ!』 朝倉サクヤ
 世界中に突如出現した7体の巨大ロボットを駆る少年少女たちの戦い。
 基本設定だけ聞くと横山光輝などの絵が脳裏に浮かんでくるけれど、実際は巨大ロボットは視覚で認識できないことが多く、ロボットものなのにロボット絵がほぼ皆無。各国のロボット操縦士もなぜか美少女ばかりで、どたばたハーレムものになるかと思いきや、2巻打ち切りでとんでもないハーレムエンドになっちまった怪作。


『暴風ガールズファイト』 佐々原史緒 
 刊行は数年前だけれど読んだのは今年なので、是非にも。
 ラクロスなんて日本ではマイナーな競技をしっかり描いた、涙あり、笑いありの熱血スポーツ小説。
 主人公が熱血バカの方ではなく、一歩引いてる醒めた優等生タイプの方という構図は、『はやて×ブレード』的だし、その優等生タイプが切れると誰より怖いところも同じ。サブキャラも良い感じにそろってます。


『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』 渡航
 友達のいない少年少女が「奉仕部」という場を与えられ、他の生徒の悩みを解決しながら自分自身の居場所をさぐっていく話で、『僕は友達が少ない』と似ているけれど、より外向きな話。


「アイドライジング!」 広沢サカキ
 近未来のアイドルはさまざまな企業が作りだしたバトルスーツに身を包んで戦うのだ!……という「スター誕生」ものに「熱血根性格闘技マンガ」の要素を足した快作。こうやって読むと、アイドル・ストーリーと格闘マンガのフォーマットは似通ってるんだなということが認識できます。


「“葵”~ヒカルが地球にいたころ……」 野村美月
 「源氏物語」と「ゴースト」をモチーフにした学園青春ミステリ。
 プレイボーイな少年の幽霊に取り憑かれ、彼の悔いを晴らすのを代行することになる、見た目不良少年の奮闘記。光の君にも悔いが残っているけれど、残された少女たちの方にも心残りやら何やらがあり、それを本来第三者である是光が獅子奮迅で解決に導いていく物語。今年はシリーズ2冊目まで。


「憑き物おとします」 佐々木禎子
 幽霊が誰の目にも見えるようになった時代の、除霊や霊障に対応する保険会社のエージェントの物語。
 調子っぱずれの凄腕の死神とか、ゴスロリ守護天使とか、脇役が良い感じで、保険会社のシビアな業務とのアンバランスが絶妙で一気に読了。
 そしてやっぱり、この話でも居候は押し入れが定位置。押し入れに居候するキャラの分類をしてみたら面白いかも。


「百合×薔薇」 伊藤ヒロ
 超能力を持つ少女ばかりが集められた女子校に、性別を偽って転入した少年の天下取り物語。
 異能バトル+ソロリティ+男の娘の三大伽をこういう形で処理してしまうかと納得。その裏で、能力がないのに能力があると偽った少女のコンゲーム的なストーリーも走っていて、今後が楽しみ。


「いとみち」 越谷オサム
 本州最北端の青森市内のメイド喫茶でバイトすることになった、訛りが酷くて人見知りで、背が小さくて胸が薄くて、ドジで頑固者で、津軽三味線が得意な女の子の物語。メイドとして、三味線奏者として成長していく姿を見守る話です。
 バイト小説としてイチオシ。登場人物は誰も彼も一癖も二癖もあるけれど、基本的に仕事に対しては真面目……という点は大事です。ふざけた仕事ぶりでも可愛くて運が良いから大繁盛!なんて話はポポポイのポイッです。


「夏のくじら」 大崎梢
 土佐の大学に進学した主人公が、よさこい祭りにかかわっていく中で思い出の中に消えたはずの女性の足跡を追いかけていく青春ストーリー。
 1つのチームを作るにはどれくらいの予算が必要で、そのためには何人集めなくてはいけなくて、集めるためにはどうしたらいいか……というところまで書き込んだ「メイキング・オブ・よさこい」小説。
 個人的にはもう少し笑えた方が良いかな。


「約束の方舟」 瀬尾つかさ
 恒星間移民船の中で繰り広げられる、異種族との対立と世代間の相剋の物語。
 少年たちは保守的な大人たちと対立することで、保守vs革新、体制派vs反体制派の構図にはまり込んでしまって気の毒な感じ。
 一方、メインヒロインが自由奔放すぎて目立たないかもしれないけれど、少女たちはみんな純粋に自分たちのやりたいことを追いかけていく中で、既存の枠をぽんと飛び越えているようで羨ましいくらい。でも、メインヒロインはちょっと奔放すぎ。


「海軍士官クリス・ロングナイフ」 マイク・シェパード
 胸の大きさだけが残念なヒロインが戦うミリタリーSF。
 海軍士官の話だけれど、地上で泥にまみれて海兵隊と人質救出作戦に従事したり物資輸送で川下りしたり宇宙ドックを吹き飛ばしたり寄せ集め艦隊を指揮したりしてます。
 とりあえず3部作は完結。話ばかりで姿を見せない異星人とか、敵対する財閥との決着とか、謎の万能メイドの正体とか、回収されていない伏線も多いので今後にも期待です。


「俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件」 七月隆文
 箱入り娘に育てすぎ、卒業した生徒が片っ端から引き篭もりのネトゲ廃人になってしまった名門女子校。卒業前にソフトランディングさせようと、庶民にして男である、平凡な高校生が拉致されて……。
 平均的な男子高校生が、純粋培養のお嬢さまたちとのファースト・コンタクトを試みる話。


「生徒会探偵キリカ」 杉井光
 超巨大学園の生徒会会計は、事件を1件1800円(前払いなら1500円)で解決する探偵になるのだ!……という話。辣腕会計は名探偵で謎を解決し、使いっ走りの庶務はその謎解きをもとに事件を解決するという二人三脚な探偵ものです。謎解きがそれだけで事件の解決になるとは限らないのです。


「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」 ゲイル・キャリガー
 人間以外の存在とのロマンスを描いたパラノーマル・ロマンスと、レトロなテイストの超発明が存在する世界の物語スチーム・パンクを足してしまい、ヒロインはパラソル片手に吸血鬼や人狼を蹂躙していくというお話。
 今年スタートして年内に3冊翻訳刊行と良いペース。ユーモアと怪奇と謎とロマンスの詰まった冒険活劇ですが、映像化するならルーカスフィルムかジブリだけれど、コミック化するなら高橋葉介だろうと根拠もなく確信しています。



 単なるバカが主役の話は嫌いだけれど、他人の気持ちを考えられるバカだったらOKかなというのが今年の感想。前年にスタートした『変態王子と笑わない猫』も好調。
 『わたしと男子と思春期妄想の彼女たち』は1巻は面白かったけれど、2巻以後自分の期待したのとは別の方向に行ってしまいました。それはそれで悪くないけれど、好みではないということで。

 それで総括としては、昨年は自分としては繰り返し読める面白い話が少なかったけれど、今年は当たり年。
 来年も良い年でありますように。
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「さよなら小松左京」 小松左京

2011-12-31 | その他SF(スコシフシギとかも)
 2011年7月26日に死去した作家・小松左京の追悼本。
 本人の創作ノートやインタビュー記事、単行本未収録の短編小説「鬼の惑星」、作家デビュー前に執筆していた漫才台本「いとしこいしの新聞展望」などを再録すると共に、友人や関係者70余人による証言や追悼文・アンケート、ミニ事典等を収録した読み応えある1冊で、イベント会場で手塚治虫と対談したときの音声データがCDでおまけについています。

 小説『日本沈没』の大ブームや映画化は知っていたし、大阪万博にも足を運んだけれど、小松左京という作家を知ったのは中学時代に友人たちと筒井康隆や星新一などの作品と共に貸し借りしていた短編集がたぶん最初。
 その後、『エスパイ』や『復活の日』を読み、『さよならジュピター』にわくわくし、とりみきのコミックに登場する姿ににやりとし、『首都消失』は新聞連載で読み、SF大会で「三浦友和の前バリ!」と嬉しそうに叫んでいた姿が脳裏に焼きついて……これは忘れたい記憶。
 さんざんに日本や地球に大災厄をふりまき続けた小松左京ですが、誰よりも日本という国を愛していたのだなというのが、いろいろな人たちの認識のようです。大好きだからこそ、他の人にもその大切さを知ってもらいたいという一面があったのでしょうか。擬似的な「失って、初めて分かる大切さ」。
 あとは、とにかく膨大な仕事量が印象的です。日本SFのブルドーザーといわれるのも納得。シンポジウムの司会をやりながら、メモをとるフリをして原稿を書いていたとか、なんなんでしょう?

【完全読本】【追悼】【さよなら小松左京】【小松左京】【日本沈没】【筒井康隆】【石毛直道】【萩尾望都】【大阪万博】【吾妻ひでお】【とりみき】【“日本のSF”をめぐってミスターXへの公開状】
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