
今まで、妖怪ものとかSFものを中心にライトノベルやゲーム分野で活躍していた木村航が、双葉社のWEBマガジンで連載していた一般文芸作品が1冊にまとまりました。
介護施設しおかぜ荘で暮らす少女、藤島環は身体が次第にカルシウム化していく難病ハンプティ・ダンプティ・シンドローム。自分の指さえも満足に動かせず、最後にはひっくり返ったら割れてこなごなになってしまうような奇病にかかっている。
もう回復する見込みはないと自分で見切りをつけた環は、家族を含めた周囲との関わりをできるだけ避けて生きている。いや、こんな自分が生きているのも好ましくなかろうと考え始めている少女の前に、スズメの雛が転がり込んだことから、彼女の世界が少しずつ変わり始める……。
「福祉施設も倒産する時代だ。経営安定化のためにはコストダウンが必要になる」
連載で読んでいるときは、まるで絶望先生のような主人公の言動に、「どこを読むと元気が出るんだ?」と思うような
「元気をだしたいひとへおくる、青春小説」でした。それが1冊の本としてまとめ読みしていると、確かにちょっとずつ元気が出そうな気がします。
周囲の世界との接触を拒絶して閉じこもる少女の絶対防御障壁に、突破口を開くのは今にも死にそうなスズメの小さなくちばしでした。小さな亀裂を通してみる世界は、今までとはほんの少しだけ違って見えます。それは彼女は意識してないかもしれませんが、気をつけて読んでいれば確かに少しだけ変わっています。
その環とスズメの世界の変わり様をじっくり追いかけていきたい本です。
あとは、まあ、自立支援法というか法律全般の仕組みのいい加減さを痛感しましょう。(2008-11-22)
3年経って文庫落ちしました。
いわゆる難病ものの医療小説なのだけれど、常に冷めた目で自分や周囲をみつめている環は独特。それは彼女の状態が生まれながらのものであって、やっかいではあるけれどそれが常態ということから来ているのでしょう。
書評家の東えりかの解説によれば、しおかぜ荘と震災をテーマにした作品の執筆も予定されているということで、愉しみに待ちたいと思います。
【愛とカルシウム】【木村航】【自立支援法】【本能】