ここでいうのは、狭義の意味で、ウエルズの小説『宇宙戦争』と、その派生群のこと。
『宇宙戦争』 H・G・ウェルズ
宇宙侵略ものの嚆矢。今の科学知識から観ればおかしな箇所も多いけれど、刊行当時の最先端科学を取り入れた作品ではあるので(それを言い出したら古典なんて読めません)、ここは素直にパニック状態に陥る人間の小ささや愚かさと、それでも脅威に立ち向かう人類の勇気を堪能したい。
『ザ・グレートゲーム』 イアン・エディングトン
一度は撃退した火星人の技術を取り入れつつも、いまだ英国は火星との戦争を継続していて全体主義国家になっているというアフターストーリーのアメコミ版。擬態して人間に潜り込むスパイとか、オリュンポス山の攻防とか、見所多し。
『第二次宇宙戦争』 伊吹秀明
最初の火星人襲来で遺された戦闘機械を西欧列強が鹵獲して、「特型戦車」として覇権争いに利用していたら……というのが伊吹秀明の『第二次宇宙戦争』。こちらは架空戦記的な解釈をしていて、あの名艦<サンダーチャイルド>の名を継ぐ軽巡洋艦も活躍するなど、また違った面白さがあります。
火星人vs地球人類ではなく、人間vs人間ですが。
『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』 マンリー&ウェイド・ウェルマン
年表を作成してみたら、たぶん火星からの攻撃があった時代って、ちょうど名探偵ホームズが活躍していた時代だよね?と気づいてしまい、『宇宙戦争』やその他ウェルズのSF短編に、ドイルのシャーロック・ホームズや『失われた世界』のチャレンジャー教授の登場する諸作品を相互に組み合わせ、辻褄を合わせてしまった傑作。
え、このエピソードはこのこと!とか、あそこにいたのはあの人だったんだ!とか、意表を突く新事実が続々と。
『火星人類の逆襲』 横田順彌
再び火星人が襲撃してきた!
そのうち日本に降下した一隊を迎え撃つのは、帝国陸軍の白瀬中尉や乃木大将、それに冒険小説家・押川春浪ら天狗倶楽部の面々であった!という、明治の日本でバンカラ男たちが火星人に立ち向かうという話。
『宇宙戦争1941』 横山信義
第二次大戦のさなか。真珠湾に奇襲攻撃をかけようとしていた日本の聯合艦隊は、先にハワイを襲撃している謎の勢力と遭遇した。それは火星から飛来した宇宙人の侵略兵器だったのだが……。
史実通りのテクノロジーと国際関係で、地球の各国は火星人との戦いに勝てるのか?というシミュレーション小説。勝てそうで勝てない、力を合わせられそうで合わせられない、微妙なリアルさが売り物の侵略SF。
『トリポッド』 ジョン・クリストファー
サマーキャンプの少年たちは、巨大な三本脚の物体が現われて軍隊と戦うのを目撃する。
やがて地球はトリポッドの異星人によって支配されて文明は後退し、100年が経過する……という、宇宙人が操る三本脚の戦闘機械との戦いを、こどもの視点から描いた4部作。
映像化作品を除けば、日本で普通に手に入る、『宇宙戦争』とその派生はこのくらいかな? もちろんウェルズ版もこども向けから大人向けまで含めると、今でも5種類以上は買えるみたい。
この他にウェルズが生み出した、火星人=タコ型というのも根強く残っていて、ハインラインの『太陽系帝国の危機』を経由して、竹本泉あたりまで痕跡があります。
もっとも日本には、「火星人は白い髪に赤い瞳のスレンダーボディ」という萩尾望都の『スター・レッド』が端緒の系譜ができつつあるようで、これは今のところ『宇宙戦艦ヤマト2199』まで続いています。