かねやんの亜細亜探訪

さすらうサラリーマンが、亜細亜のこと、ロックのこと、その他いろいろ書いてみたいと思ってますが、どうなることやら。

A COLOSSAL FAILURE OF COMMON SENSE

2009年09月02日 | Books


丸善に行ったら、本書が平積みされていたので、読んでみた。
もうすぐあれから一年になるが、リーマンブラザース破たんの内幕本だ。

題名は、”とてつもない破たん”とか”とてつもない常識の崩壊”とでもいう意味だろうか。

著者は、リーマンでは、最後は、クレジットの悪化した債券のトレーダーだが、的確に、リーマンの状況は捉えていたようだ。ただ、最後のところは、リストラされ、伝聞や、報道からの記述も目立つ。大混乱だったから、この部分をちゃんと書ける人は、たぶん5人いないだろうが。とにかく、”とてつもない破たん”だった。そして、世界は、その後始末にまだあえいでいる。

あの破たんから、一年近く経ち、いろんなことが明らかになっているから、すべてが驚きの内容ではないが、やはりその中にいた者だけが書けるリアリティがすごい。

まず冒頭に、クリントン時代、銀証分離の法律である”グラススティーガル法”を緩和したところから、この問題は始まった言っている。この法律は、大恐慌の後に作られたもので、もう古いと思われていたのだが、マーケットの秩序維持のため、意味があったと説く。結果的にはその後、大混乱になってしまった。
結局、この世から投資銀行というカテゴリーはなくなってしまった。弱肉強食のマーケットが、全体を強くするという考え方が、ワークしなかったのだ。もちろん方法が悪かったという向きもあろうが。小泉改革がワークしきれていないのと同じ理屈だ。
作者は、このことをメインストリート(通常の商業銀行)に、ウォールストリート(投資銀行)が、吸収されたと表現している。

著者のキャリアは、しがない債券のセールスマンから始まる。いかに、リスクに無頓着な投資家を探すかが勝負だったようだ。本当の金持ちは、元本割れリスクに極めて敏感だったという。

そして、著者は、転換社債という債券に目をつける。元本割れリスクはないし、株価上昇のメリット享受のチャンスもある。金持ちは、高い金利をもらえるかどうかは、大きな問題ではなかったという。

ただし、この傾向に目をつけ、あまりにも投資家に不利な条件の発行が増えるのを見て、転換社債の評価サイトを作り、高い評判を得て、百万ドルプレーヤーへの道を歩み始める。

それからも、様々な投資家に魅力的に見える商品が開発されたが、その成りの果てがサブプライムローンだったという。
博打性が見えないようにオブラートに包んで、業界グルになった商品だ。
”忍者モーゲージ”などという言葉も使われているが(日本で、この言葉を聞いたことはなかった→忍者という言葉をネガティブな意味に使ってほしくないが)、借入人、投資家、すべてを欺いて、投資銀行だけが、暴利をむさぼる構図だ。著者もVPだから、メリットを受けた側だが、リーマンのトップの人達に比べれば、比較にならない。もちろん著者のエクスキューズもあるだろうが。

ボスとカジノに行った話が出てくるが、1000万円以上損しても、ボスは、やめず、結局最後の大ばくちで勝ったという。要するに勝つまでやめない、勝ったら勝ったで、とことん利益をふくらませないと気が済まない。投資銀行のスタイルを具現化したような人だ。

マーケットがピーク時に、この状況は異常であると説いた人が、何人もいたが、結局無視され、会社を去っていった。そして、グリーディーなトップと、追随するトレーダーのみが残っていった。
ボディービルダーという単語がよく出るが、要するに、家の価格が上がらない限り返せるはずのないローンをつけて家を売り、それが証券化されたものを、ローリスクハイリターンですよと言って、投資家に売る働き蜂のことをさしているようだ。
このような体力勝負(日本では、体育会系もしくは陸軍と呼ばれるのだろうか→失礼!)の人達がその大きなビジネスモデル?を支えた。彼らの年収ですら、5千万円以上に達していたという。

そうして膨らんだリーマンのレバレッジは、40倍以上にも達したという。健全性の指標である自己資本比率規制は、住宅ローンの会社や、リーマンのような投資銀行には適用されず、野放図に、ローンを出しまくって、突然死した。日本の銀行は、せいぜい7~10倍ぐらいだろうか。

本書は、内幕本として、きわめて貴重(特に、当時のアメリカ国内で起こっていたことの情報の少ない日本人にとって)だ。ただ、その中で、悪者扱いされているトップ二人の自伝がでたら、もっと面白い発見があるだろう。彼らは、本当に、最後は、どうにかなると思っていたのだろうか。たぶん、答えは、YESだと思うが。

著者は、リストラされた時にもらった株券も紙屑になり、それが、皮肉にも、本書を書く強いインセンティブになっているのだろう。
たぶん、邦訳も出るだろうから(原書は、2009年7月発行)、(値段にもよるが)一読をお勧めしたい。証券マンと話したくなくなること請け合いである。
コメント
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