第1、アドボケイト(意見表明支援員)が何ができるか。
1、まずは、子どもの権利を中心とした社会を、児童福祉法改正・こども基本法制定を機に子どもの意見表明ができる仕組み作り(第9参照)をしっかりと作っていくことが求められます。
2、また、子ども自身にも子どもの権利がどういうものであるか(第6参照)、意見表明権とはどういうことかを知ってもらうことが重要で、子ども達に関わる大人が機会を作り、子ども達に伝えていくことが求められています。
3、最後に、実際に子どもが意見を言える場作りが重要です。子どもが口を開く場、ぽろっと話せる場を作る必要があります。子ども会議、意見箱、交換日記、FGC設置などもまた有効です。
まず、子どもの意見をどのような姿勢で聴いていくべきか、第2で述べます。
第2、アドボケイトが子どもの意見を聞く場合に大切なこと
支援の際は、子ども達が、声を上げるのが難しい状況にある。言ったことで自分がどのように評価されるかの不安、言ったことでの影響、言ったとしても何も変わらない、変わらなかったことによる無気力などが要因となる。
しかし、感情や思考が抑圧された経験は、自分の人生なのに自分で決められないということであり、これからの人生でも孤立感・孤独感を抱き、助けてが言えないままとなるであろう。
アドボケイトが生じる葛藤が、子ども主導と子どもの最善の利益で考えられる方策との間で生じる。それでもやはり、子ども主導という軸は、アドボケイトは失ってはならない。
子どもと「ともに」アドボカシーを進めるには、例えば、学校教育などの場で子どもの権利を伝えることがきっかけとなるであろう。
あらゆる子どもに通じる傾聴のありかたを以下、10のポイントを述べる。
1、安全をつくること
まずは、安全をつくること。笑顔で聞いてあげて、安心感を与えてあげる。気持ちを和らげてあげる。
2、目を見て聴く
聞いてもらえたという実感を与えられるように努力する。そのことは、本人にしかわからないとしても。目を見て話すことも重要。
3、さえぎらないこと
一つ一つ丁寧に、時間をかけて聴く。時間をかける中では、子どもが言ったことが、考えが変わることもあるかもしれないので、それが変わったとしても大丈夫であることも伝えてあげる。さえぎらずにに最後まで聴き切る。最後まで聞いてもらったと言えるように聴く。
4、言葉だけでなく、声、表情を受け止める
本人が言ったことばをそのまま受け取るのではなく、声、表情なども入れ、総合的に判断する必要がある。恥ずかしくて言えていないこともある。
5、言いたくないことは言わなくて良い、言ったことも撤回できる
言いたくないことは言わなくてよいこと、途中でやめてもよい、言ったことを撤回してもよいことを伝える。言いたくないことや表情が固くなることなどもあり、その場合は、体が固くなって苦しそうにみえるよなどナレーションを入れて対応する。間を大切にしながら聴く。その子の発したマイナスの感情もとても重要で、待つことも大事。
6、遊びの場なども活用
遊びをしながら、ぽろっということも非常に重要な意味を持つことがある。心の傷の体験などもごっこ遊びででることもある。
7、大人としてではなく対等な立場で聴く、専門性の帽子を脱ぐ
大人の経験や専門性はまず横に置いておいて、アドバイスは途中でせず、聴き切る。誘導はしない。思い込みで聴く側も判断しない。アドバイスを求めているかなども判断してから、行う。
8、子どもには力がある
子どもには、力があることを信じて聴く。その子なりの経験や考えがあり、敬意をもってきく。
9、トラウマインフォームドケアのスキル
トラウマインフォームドケアについても学びながら傾聴のスキルを上げていくことが重要。
10、学校連携
学校などの他機関との連携を行う。
第3、一時保護所でのアドボケイトの大切なこと
一時保護所がどのような場であるか、アドボケイトは、その活動に関わる一時保護所の状況を自らの目で把握する必要があります。
また、他地域との比較も重要で、永留里美氏の本講座『一時保護所の子どもとアドボカシー』や慎泰俊氏著『ルポ児童相談所』もまた参考になります。
もし、子どもの人権が著しく侵害されているような場合があったなら、システムアドボカシーとしてその改善を図る必要があります。
本講座藤林氏によると、子どもが突然連れてこられ、学校の友達にもなにも言えなかったということや、いったいいつまでいるのか説明がつかない、携帯もとりあげられ、手紙もすぐに届かない、自由に外に出れないなどが述べられていた。
もちろん、メリットもあります。たいていの子ができなかった、安心・安全が保障され、食事がきちんと提供され、きれいな環境で生活し、規則正しい生活を送れることとなります。
連れて来られるにあたり、運動会・体育祭などの行事を、子どもの安全も図りながら可能なものを実現させていくことも配慮はされるとのことであり、もちろん、当然されるべきことと同感です。
きっと子どもは、不安であり、孤独であり、悪くない本人が、自分が悪いから連れてこられたと自己肯定感を否定してしまう子どももいるはずである。心のケアが必要です。
接するアドボケイトは、きちんとその子に寄り添い、連続した心のケアを行なっていかねばなりません。
所属学校とつなげることも大事であり、担任の先生やスクール・ソーシャル・ワーカーと連携し、それら先生が一時保護所に来所できるようにしていきたちものです。できるのであれば、オンラインで学校の授業に参加できるように、GIGA構想下、実現していきたいと考えます。
なお、講演の際に、一時保護書での子どもの手紙が、見られてしまうことが話題になった。刑事事件等での一時保護では、やむを得ない措置だが、それ以外は、手紙を通信の秘密が守られるべきである(憲法第21条第2項後段)。
第4、里親制度を活用する子どもへのアドボケイトで大切なこと
当然ではあるが、里親制度をきちんと理解した上で、里親制度を利用する子どもの声を聞くこと。
特に里親では、第三者が増えるということをまずは、意識せねばならない。
本人にとっても、支援者がころころ変わるということがないように、入るならずっと関わることが大事である。
里親の場合は、山本氏が実践されているような「子どもスペシャル」という遊びの時間が重要である。そこで子どもが主体に過ごせ、他の子らと里親利用の子や里親の実子が愚痴を言えるし、情報交換ができる。
アドボケイトができる一番重要な役割は、そのような話し合いの場で、ファシリテーターを務めることであろうと現実的なプランとして考える。
第5、児童福祉移設を活用する子どもへのアドボケイトで大切なこと
施設に入っている子への社会的なレッテルをどうするかは、この問題だけではなく、社会の根源的な問題、多数が少数を差別、偏見でみるということにあり、その脱却へは道が長い。
第6、どのように第5を解決するか、権利教育から始まる
そもそも、権利とは何か、日本では小学校6年生で、その言葉を学ぶらしい。 小学校3年生で扱う、ちがいのちがいという場面から、すなわちちがいがあってよい場合と、ちがいがあって悪い場合を理解するところから権利の概念が出てくる。
反対の意見があってもそれを尊重すること、また、意見を表明することができたということと、その表明したことが実現したことが違うということを分けて考えることがわかっていくことが重要である。
自分にも意見があって、それと対立する反対の意見もある。
意見と意見が対立し、両方が実現できないこともある。 だからこそ、対話して、解決がなされていく。
現在、文科省がやろうとする「主体的対話的深い学び」に、実は、権利を教えることと通じている。
第7、障がいのある子へのアドボケイトで大切なこと
障がいがある子へのアドボケイトのありかたは、ない子への対応と同じと考えてよい。
ただ、虐待のリスクは、ない子の4倍という統計もあり、一時保護所での入所の割合も高くなるであろうし、よりアドボケイトとして対応することも多くなる。 里親も、障がいのある子への特化した取り組みをされている方々もおられる。 権利をどう伝えるか、自分らしく幸せを感じることできることである。
白紙でその子を見ることがとても大切であると考えます。
また、脱施設は、障がい者施策全体で言えることであるが、日本が脱却せねばなりません。
第8、休む権利
支援に入る際に、自身の体調を感じておくことは、とても大切である。
教師、職員でさえ、疲れることががある。
しんどい場合は、その場から離れる、一旦休憩し休むこと。そのことによって自分らしさが回復できる。
子どもにも、大事な、休む権利が保障されねばならない。
第9、令和6年施行、改正児童福祉法、子どもの意見表明権に関する部分の施行する上での注意点
子どもの権利条約批准、こども基本法施行、児童福祉法令和4年改正などにより、子ども達の声を聴いていくことが法律に織り込まれ、実施されることとなりました。
その中でも、最も重要な課題のひとつは、社会的養護を必要とする子ども達の声を聴いていくことであり、児童福祉法令和4年改正で位置づけられたところです。 ポイントは、「児童等の意見聴取の仕組みの整備」として述べられ、令和6年4月1日施行となります。
具体的には、「意見表明等支援事業」が始まります。
改正(新設)された条文で、子どもアドボカシー学会が出されている意見書なども参考に、その条文の問題点や課題を記載します。
1,新設 第6条の3 17項
①子どもの「意見又は意向の把握」だけではなく、そもそも「意見又は意向の形成及び表明の支援」をしていく必要があります。
②子どもの意見を聴くひとは、「児童の福祉に関し知識又は経験を有する者」であり、なおかつ、「児童の意見表明等の支援に関する専門的知識・技術を有する者」である必要があります。
③子どもの意見を聴くひとがすることは、「連絡の調整」が、本当にメインの位置づけでよいのか。「権利主張の支援とその実現」にこそ、重きをおいた「調整」が必要です。
2,新設 第33条の6の2
①子どもの声を聴くことが、着実に実施されるために、「児童の意見表明等の支援に関する専門的知識・技術を有する者」が人材として必要です。
3,新設 第34条の7の2
①都道府県が、本当に意見表明等支援事業を行ってよいかという根本的なところに問題があり、都道府県と“独立”した組織が、同事業を担えるようにしていく必要があると考えます。
4,新設 第33条の3の3
①「年齢、発達の状況その他の当該児童の事情に応じ」と条文で述べるところは、その年齢及び成熟度に従って“正当”に意見が重視されることでなければならず、低年齢であることや、未だ成熟途上にあるからという理由だけで、意見を軽んじたり、重視しなくてよいということは、意味していないことに注意しなくてはなりません。
<参考>
●法改正の該当箇所
●子どもの意見聴取等の仕組みの整備
●スケジュール
第10、子どもの意見表明権を実施し、防いでいくべき状態、ACEサバイバーを守ること
小児期逆境体験(ACE、Adverse Childhood Experiences)が成人になって及ぼす影響が多大であり、それを防ぐことが小児科医の使命であると考えます。
ACEとは、0歳から18歳までの子ども時代に経験するトラウマ(心の傷)となりうる出来事を指し、①身体的虐待、②心理的虐待、③性的虐待、④身体的ネグレクト、⑤心理的ネグレクト、⑥親との別離、⑦近親者間暴力、⑧家族のアルコール依存・薬物乱用、⑨家族の精神疾患・自殺、⑩家族の服役の10の質問項目で経験した数の合計が、ACEスコア(0~10)です。
1980年代から米国で始まった研究で、ACEスコアと成人後の心身の疾患や問題行動に明らかな関連があり、スコアが4以上の人はゼロの人と比べ、がんになるリスクは1.9倍、脳卒中は2.4倍、アルコール依存は7.4倍、自殺未遂は12.2倍高いという結果が出ています。
また、失業や貧困、社会的孤立や子育ての困難も高率に来たします。
発症のメカニズムは、ストレス反応の変化、脳そのものの変化、遺伝子発現の抑制などと考えられます。
小児期にACEによって受傷しながらも、その子どもが地域で信頼できる他者と関りをもつこと等で、その傷とうまく折り合いをつけて強く生きていくことが可能です。
トラウマへのケアもなされます。ACEサバイバーが生きやすい社会そしてACEそのものを予防できる社会を考えて参りましょう。
三谷はるよ著『ACEサバイバー』が入門書の一つとして参考になります。
以上