1)福島原発は、多重防護機能喪失が起きました。臨界自動停止は作動しましたが、燃料棒を冷やすことや封じ込めることに失敗しました。
燃料ペレット(一部融解)
ジルコニウムの燃料被覆管(一部破断)
圧力容器(おそらく損傷、1と2号炉)
格納容器(圧力抑制プール等損傷、2号炉)
原子炉建屋(水素爆発)
2)放射性物質の環境中への漏洩は、以下、3つの経路からなされています。
1、ベント開放(高圧による圧力容器の破壊を防ぐ)
放射性希ガスおよびその娘核種
揮発性の高い放射性ヨウ素等
2、圧力容器・格納容器の損傷
放射性セシウム等、非揮発性の放射性物質も飛散
3、汚水の漏洩
溢れ出した冷却水。圧力容器内の水?
3)法射線防護の目標は、
第一の目標 放射線急性障害を防止:全身急性被爆線量が500mSvを超さないように管理(とくに防災作業者)
急性放射線障害
しきい線量 1Sv以上の急性全身被爆で発症
放射線感受性の高いリンパ節や造血組織の障害が先行
皮膚(3Sv以上で1度熱傷、12Sv以上で2度~3度熱傷)
消化管 6Sv以上で一時的下痢
第二の目標 放射線発がんリスクを合理的に達成可能な限り低く管理(防災作業者と住民)
急性被ばく 全身約100mSv(小児甲状腺50mSv)以上で将来の発がんリスク上昇
可能限り、発がんリスクの上昇しないレベルに低減
一回数mSv未満の被ばくを繰り返し合計100mSvを超しても、発がんリスクは検出不能なレベル
4)緊急対応期の住民防護対策
4-1緊急時:放射性希ガスや放射性ヨウ素を含むプルーム(放射性物質を含むチリの入った空気のながれ)からの防護
超短半減期の核種が多い
外部被ばく線量を減らす
放射性ヨウ素の吸入を減らす
安定ヨウ素剤を服用する
プルームからの被ばく対策
域外退去(避難);予測実行線量50mSv以上
コンクリート屋内退避:予測実行線量50mSv以上
屋内退避:予測実行線量10mSv~50mSv、予測小児甲状腺線量100~500mSv
安定ヨウ素剤内服:予測小児甲状腺線量100mSv
<風下方向対策地域以外での被ばく低減措置>希釈されたプルーム通過時(最初の数日)
*不要不急の外出を控える
*露出部分を少なくする(帽子、多重マスク、レインコート)
*屋内への放射性物質持ち込みを少なくする
(外側の衣服をビニール袋に入れて保管、靴の保管)
*雨に当たらない
*外出後に手洗い、洗顔、シャワー
<プルームが去った後の被ばく経路とその監視>
*地表に降り積もった放射性核種からのガンバ線(
空間線量率のモニタリング)
*舞い上がった放射性のチリの吸入(
ダストサンプラーによるモニタリング)
*汚染された飲料水・食品
(
流通の制御)
*雨風により地表面から洗い流されるため、放射性物質の物理的半減期より短い時間で減少して行く
4-2飲料水・食品の摂取制限
放射性ヨウ素・セシウムの摂取制限
<放射性物質の経口摂取の低減>
*暫定規制レベルを設定して、経口摂取を低減する
*放射性ヨウ素 乳幼児の甲状腺の線量が50mSvを超さないように設定
*放射性ヨウ素I131は半減期が短い(8日間)ので、最初の1~2ヶ月が勝負時期
*放射性セシウムCs137(半減期30年) 全身の線量として5mSv/年以下になるよう設定
5)放射線の発がん影響
*放射線被ばくにより、組織を再生する幹細胞・前駆細胞に遺伝子損傷が起きる結果、将来白血病やがんになる確率があがる
*1回に約100mSv(小児甲状腺50mSv)以上の被ばくで発がんリスクが検出されるようになる。
*原爆被爆者の疫学調査により、被ばく線量あたりの発がんリスクの大きさが分かってきた
*低線量長期間被ばくでは、総被ばく線量が同じでも原爆被ばくの瞬間的被ばくに比べると、発がんリスクが低下し、リスクが検出されなくなる。
6)放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児甲状腺がんリスク
*チェルノブイリ事故数年後から、小児甲状腺がんの罹患率上昇
*悪性度の低い乳頭状腺がん(死亡は少ない)
*内部被ばくによる甲状腺がんリスクの大きさは、外部被ばくの約半分
*1万人の子どもが100mSvの甲状腺被ばくを受けた場合、数年後より毎年0.2名の甲状腺がんが増加する大きさ
*白ロシアやウクライナは、元々ヨウ素欠乏地域であり、その寄与もあるか?
7)急性被ばくと遷延被ばく
*急性被ばく6000mSv以上→重症 急性放射線障害
*急性被ばく1000mSv~6000mSv→軽症~中等症急性放射線障害
*急性被ばく100mSv(小児甲状腺50mSv)以上→発がんリスク上昇
*一回10mSvを繰り返し受ける→放射線感受性の高い組織でがんリスク上昇。線量あたりのリスクは半減
*一回3mSv素線量→すべての標的細胞にはヒットしなくなる線量
8)放射線の胎児影響・2世影響
原爆胎内被爆者:胎児期8週~15週(25週)
0.1Sv以上で頭囲減少。
0.4Sv以上で小頭症、脳発達障害、」知能障害
*チェルノブイリ事故後の堕胎の増加
→放射線に対する過剰不安が国民を不合理な健康行動に走らせる
9)国民に対する情報発信
*守られているという安心感を与えることが肝要
*飲料水・食品の安全を担保
*非汚染を保証するのではなく汚染レベルは安全なレベルというメッセージ
*常に食品は放射性カリウムなどの放射性物質を含んでいる
10)放射性セシウムー137
*半減期が30年
*雨風により半減時間は短い
*食物連鎖により体内へ
*体内に入ると、カリウムと同じような動態
消化管から吸収され、細胞内へ取り込まれる
*一方、退社に体内から約100日の半減期で排泄される
*<暫定規制値>
飲料水 200 Bq/kg
牛乳・乳製品 200 Bq/kg
野菜類 500 Bq/kg
穀類 500 Bq/kg
肉・卵・魚・その他 500 Bq/kg
上記5群の食品を平均なメニューで1年間食べ続けた場合に、各群から最大でも1mSv(5群で5mSv)の被ばくに収まるレベル
5mSvの被ばく、あったとしても10歳児で最大0.1%生涯がんリスクが上昇するかどうかという安全レベル。
11)日常的な被ばく線量(世界平均)
宇宙線 0.39 mSv/年
ラドンガス 1.26mSv/年
原始放射性核種/経口 0.29mSv/年
原始放射性核種/外部被ばく 0.48mSv/年
小計 2.4mSv/年
医療被ばく 0.6mSv/年 一部の国 約3mSv/年
すべての核爆発実験 0.01mSv/年
12)緊急対策期から中期対策期へ
*屋内退避、一時避難の解除に向けた準備、及び疎開しなければならない地域の指定
IAEA解除の指針あり
*農業・酪農、漁業再開の指針
*チェルノブイリ事故後の施策も参考になる
13)キーワードは、リスクの認知と受容
*年5mSvの放射性セシウム全身被ばく 10歳の子どもで最大でも0.1%リスク上昇
*肥満(BMI5増加)のがんリスク 20~60%増加
14)最後に
*放射性物質が環境中に放出されたという現実を受け入れるところから始まる
*放射性物質フリーの生活を望むのではなく、どう放射性物質と安全につきあって行くのかが問われている
*チェルノブイリ事故後の田畑再生、土地改良、国民の合意形成手法等、私たちが学ぶべきことは多くある
以上
『緊急被ばく医療の基礎知識 福島原発事故と今後の課題』
国際医療福祉大学 鈴木元先生
ご講演を参考に。