こっぱもちの部屋

主に、読書感想のブログです。他に、日常生活で楽しかったことを書くと思います。

『ぴりりと可楽』吉森大祐

2020-10-19 20:24:38 | 読書感想
 
櫛職人の又五郎は、上方の芸人が奉行所の締め付けにも負けずに寄席の興行をしようとすると聞き、土地の流儀を無視していると立腹。先に江戸っ子がやらないと名折れだと、天狗連の若手で始めて大失敗。

他の土地で修業をしてこようと、流れ流れて松戸宿。
そこで出逢ったのが、謎かけの淡雪。
本人に非難されつつ物まねから始めて、自分なりの芸を探し続ける事、二年。
三笑亭可楽として、江戸で成功するまでの顛末が描かれているのがこの物語。

史実がどこまで描かれているのかは分かりませんが、趣味でしかなかったハナシの芸を様々な出会いと修業の果てに噺として結実させる、というところはもちろん、色んな町人や芸人が個性的で魅力的に描かれていて、とても面白く読めました。
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『甘夏とオリオン』増山実

2020-10-17 19:39:01 | 読書感想
 
小学校の校長だった父親が厳しく、はしゃぐことさえ鋭い目線で押さえつけられていた過去を持つ恵美は、アホになりたかった。

ふとした事でやったバイトの祝儀三千円で入った寄席で聴いた落語の中に、憧れた「突き抜けたアホたち」がいると知り、トリの噺家のとびきり素敵なアホに惚れ、その桂夏之助に弟子入りした。

本来、夏之助は女性の弟子は取らないと言っていたため、兄弟子の一人・若夏は、甘夏こと恵美に、つらく当たる。
もう一人の兄弟子の小夏も、落語は男が演じやすいように作られているので、女が演るには難しいと語る。
そう言われながらも修業に励んでいた時に、師匠が失跡する。
三人の弟子は、どう感じ、どう動いたか?

夏之助師匠は、本当に突発的にいなくなったので、弟子たちは捨てられたように感じたのも無理はないと思います。
そんな中で、師匠が帰ってきやすいような会を催したりと、読んでいて涙ぐみそうな努力をする三人。
複雑な想いがあるでしょうね。
主人公は甘夏ですが、弟子三人の成長物語でしょう。
そして結末には、切なくも温かい気持ちにさせられました。
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コミックス『部屋裏のバイテン(1)』竹本泉

2020-10-16 17:20:08 | アニメ・コミック・ゲーム
 
佐塔美緑の部屋のクローゼットの奥になぜか穴が開き、そこから猫耳の少女が現れた。

…って、竹本さんは相変わらず、妙な話を始めちゃっていますね(褒めています)
そうですよね。日本の漫画の伝統としては、猫耳少女にはエプロンドレスですよね♪(©大島弓子さん)

それはともかく、美緑と葵姉弟の元に現れるケモノ耳の少女たちといい、捕まえにやって来るバイテンたちといい、妙な現象の極みなのに、主人公たちの順応が早いのは、なぜなんでしょう?

いや、私も一応オタクなので、普通よりは順応性があるかな?とは思うのですが、もう少しパニックになってもいいじゃないですか。

まあ竹本さんは、妙でも、まったりのんびりぼんよりが作風だから、仕方ありませんかね。
そこを好きになったわけですしーっと、私もぼんよりな秋の夕刻の感想なのでした。
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『線条痕』草上仁 「ミステリーズ! vol.103 2020年10月号」より

2020-10-15 19:58:21 | 草上仁
 
航宙自衛艦の中で起きた殺人事件。

リニアガンを使用したようで弾丸に線条痕が残っていず、現場が工作室である事もあり、ウォーターカッターの水とバキュームによる吸引で血痕や遺留品は陰圧ダクトにすべて吸い込まれ、手がかりは望めない。

捜査する警務官・岸名曹長は、どうやって犯人を突き止めたのか?

宇宙の自衛官というのも面白いのですが、それはそれ、宇宙船だからこそ消えてしまう祥子というのはなお面白く、その中でも消えない証拠をどうすれば見つけられるのか?というところが、今回の難しさであり、楽しみでもありますね。

結末を知ってしまうと、なるほど!そっちか!と膝を打ち納得できるものですが、気づかないものです。
面白かったです。

ちなみに、ちょうど一年前も、草上さんの著作について書いていました。
偶然とはいえ、面白さを感じました。
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『スキマワラシ』恩田陸

2020-10-09 20:16:54 | 読書感想
 
建築家だった亡き両親を持つ兄弟が主人公。
兄・太郎は、引手を中心としたあまり大きくない古い建材を扱う古物商を、実家の纐纈(こうけつ)工務店でやっている。
弟・散多(さんた)は調理師免許を持ち、都内の飲食店に勤めていたが、経営者が身体を壊して店を畳むことになったのを機に、実家に戻って兄の仕事を手伝いつつ、実家の工務店の帳場だったところにカウンターを作ってバーのようなものを開いている。

ところが、ここ二、三年のこと、あちこちの建物の解体現場に、十歳から十二歳くらいの白い夏物の服を着た長い三つ編みの少女が現れるという噂が流れるようになった。

実は、散多も子どもの頃に、記憶には無い少女に出逢ったことがあり、当時はクラスメイトに肉親だと紹介していたらしい。
兄にその話をした時、兄は彼女をスキマワラシと命名した。
さらに散多は、古いタイルなどに触れると「過去」が見える時があり、トンネルの壁ともなると、確実に怖い光景が見えてしまうので、注意が必要だった。

現在も、太郎や散多が両親の仕事の足跡をたずねていくと、古いタイルに出逢ったり、スキマワラシを見たりもする。

スキマワラシの正体や、散多の能力とは、何なのか?

462ページという久しぶりに分厚い本でしたが、白い夏の少女や、途中から登場するダイゴハナコという女性の不思議を追ううちに、現実の日本とこの物語を重ねて「今までの日本は夏を過ごしていて、これから秋冬を迎えるにあたって、実りのあるものにしていかなくてはならないのかなあ?」と感じました。
現実は、様々な情報からすると、とても実りなんて期待できそうにもありませんが、少しでもより良いものが残せる国でありたいです。
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