興趣つきぬ日々

僅椒亭余白 (きんしょうてい よはく) の美酒・美味探訪 & 世相観察

出船の用意

2012-02-29 | 言葉ウォッチング

「出船の用意」

これはわたしが中学生の時に、校長先生が毎週月曜の全校朝会で話してくれた 「訓話」 の中にあった言葉だ。

意味は、漁師は海でのその日の漁が終わると、船を舳先が海側に向かう形で引き上げ、浜に据え置く。 なぜなら翌朝再び漁に出るとき、スッとそのまま出ることができるからだ。 これを出船の用意という。
(生徒に対して) あなたたちも前夜のうちに、翌朝そのまま家を出られるように必要な持ち物をそろえ (宿題なども済まし)、準備しておくといいですよというような諭しであったと思う。

物覚えの悪いわたしではあるが、海に向かって置かれた船のイメージとともに、なぜか何十年も経った今もこの言葉をよく憶えている。K先生という、校長先生の名前まで憶えている。

先日、地下鉄都営新宿線の電車に乗っていて、車内広告の中にこんな言葉を見つけた。

「先を見て齊(ととの)える」

和洋九段女子中学校の広告の中にあった言葉だ。 この学校の校訓のようである。
後の結果を事前に予想し、前もって準備を調えよ、という教えであろう。

いつも切羽詰ってから慌てふためく自分を棚に上げていえば、これはまったくその通り。 仕事なり人生の勘どころを押さえた名言である。
中学時代のK校長先生の 「出船の用意」 も、ほんとうはこういう広い意味をもったものなのかもしれない。

この 「先を見て齊える」 と 「出船の用意」 の、二つの出典を知りたいと思い、最近小学館から出た 『故事俗信 ことわざ大辞典 第二版』(北村孝一・監修) を見てみた。

この二つは残念ながら採られてなかったが、たまたま 「宵の苦は明日(あした)の楽」 という項目を見つけた。 解説は 「前日の夜のうちに苦労をしておけば、翌日は楽になる」 とある。 これはこの二つに近いかもしれない。






ところで、この故事俗信 ことわざ大辞典 第二版 (小学館) は、たいへんによく出来ている。

43,000項目という日本最大の項目数を誇り、解説にはことわざ研究の最新の成果が盛り込まれている。
古今の文献・文学作品からの用例も豊富で、まさにことわざ辞典の決定版。

人生の真実、生活の知恵の結晶が詰まった一冊 である。