「よう、しばらくだねえ」
昨日昼ごろ、池袋駅東武百貨店側の地下通路で、前から歩いて来た男に声をかけられました。
知らない人です。
50は超えていると思われる年恰好の、サラリーマン風の男でした。
「ほら、オレ、佐藤だよ」
「・・・・・?」
わたしはどうしても思い出せません。
男 「オレ、痩せたからなあ、大腸患って・・・。 佐藤だよ、電気関係の」
私 「・・・・? わたしに似た誰かとお間違えではないでしょうか?」
男 「あ~あ、忘れたんだな」
男は一瞬がっかりした表情を浮かべましたが、あきらめずに続けました。
男 「ホラ、みんな居ただろ? 鈴木さんとかサ・・・。 スーさんよ」
男は親しげに ‘タメ口’ で話しかけてきます。
私 「どこか飲み屋で会ったんでしょうか」
男 「そう、いろいろ」
(・・・いろいろ? いろいろって何だろう)
一瞬疑問が頭をよぎりましたが、男は畳み掛けるように話しかけてきます。
男 「田中さんとかもいたじゃない?」
私 「・・・・・?」
わたしに一生懸命思い出させようとしているこの男に対して、わたしはなにか次第に申し訳ないような気持ちになってきました。
最近、たいへん忘れっぽくなってきているのです。
男 「ヤマちゃんもいただろ?」
私 「えっ、ヤマちゃん?」
ヤマちゃんといえば、わたしには山本という知り合いがいます。 みんなに 「ヤマちゃん」 と呼ばれています。
私 「山本さんのこと? 白兎商会の」 (名前、社名とも仮名です)
男 「そ、そ、そ、そ、そっ」
男は、やっと分かってくれたの? と言わんばかりです。
(でも、山本氏とはいろんなところによく飲みに行ったけど、そのどこかに、この男いたかなあ?)
新たな疑念もわきましたが、基本的にはその時点でわたしは、 「この男とわたしは旧知の間柄で、わたしがたまたま十分思い出していないだけだ」 という “空気” にハマッテしまったのでした。
「今日はどこに行くの?」
と聞く男に、1時に大塚で用事があり、それまで一時間ほどブラブラしている、ということまで話してしまったのです。
結論を急ぎましょう。
要するにこの男は、競馬で大当たりして、大金を得たのだそうです。
(近寄ってきて見せてくれた小ぶりのカバンの中には、二つ折にした分厚い札束が、折り山を上にして四つ、きれいに並んでいました。 万札です)
当たったのは 「競馬の先生」 に教えてもらったからで、その先生にこれから会うから、よかったらいっしょに来ないかということだったのです。
ここまでくるとさすがに、いくら ‘お人好し’ のわたしでも胡散臭さを感じないわけにはいきません。
「オレはいいよ。 春から縁起のいいことがあってよかったじゃない。 これからもがんばってネ」
とわたしもタメ口で言い残して、その場を去ったのでした。
考えてみれば、男はわたしのことを名前で呼んだわけではありません。 山本という名前もわたしのほうから言ったのです。
それに、 「佐藤」 「鈴木」 「ヤマちゃん」 といえば、誰にも思い当たる人の一人や二人はいるのではないでしょうか。
まさに新手のオレオレ詐欺と言っていいかもしれません。 しかも目の前に現れる “対面オレオレ詐欺”。
もし欲に駆られて、わたしがその男について行ったら、どうなったのでしょう。
高い馬券を売りつけられたか、人気の無いところに連れていかれ、男の仲間も加わって脅され、ゆすられたか・・・。
怖いなあ。 (((( ;゜Д゜))))ブルブル
ともあれ男はわたしを見て、騙しやすそうな ‘ぼんやりマン’ であると思ったから近づいてきたのでしょう。 腹立つなあ・・・。
その後に行ったJRの大塚駅です(南口を望む)。
(この記事の文字部分だけコピーしたものを持ち、近いうち池袋駅東武側の交番に、この出来事のことを届け出ようと思っています。 広く注意を喚起してほしい)