評論家の犬養道子さんが先月24日、96歳で亡くなられた。
犬養さんのエッセイの熱心な読者であったわたしとしては、心からご冥福を祈りたい。
上の写真は犬養さんの著書『幸福のリアリズム』。わたしの座右の書の一つである。
わたしはこの本で、ものの見方・考え方の基本や、生きていく上でのいくつかの具体的な知恵を学ぶことができたように思う。
その具体的な知恵の一つを、ここに紹介しよう。
「集中力」を高めるためには、頭と心が整理されていることが肝要であるが、それだけでなく、「体をほぐすこと」も大切であると犬養さんは言う。
そのことを野球のピッチャーを例に述べたあと、以下のように続けている。
私はあるとき、9時20分に迎えが来るというのに、(泊まっていたホテルの)給水管が具合わるくなって、9時でないと湯がでないと言われたことがある。しかし、どうも疲れていたので、シャワーをあびないと、講演という精神集中はうまく出来ないと考え、9時5分すぎにシャワー室にとびこんだ。
すっかり筋肉がほぐれて疲れもとれ、シャワーから出て時計を見たら、なんと、まだ9時8分だったのをおぼえている。そして、その3分のために、私は全力投球することが出来た。つまり、意外と「ほぐすため」の時間は「短くてよい」のである。
(同書の中の1章「双眼鏡とひき出し」より)
この犬養さんの文章は具体的であり、実践的である。抽象的な教訓に終わっていない。
もちろん「シャワーをあびる」というのは一例で、「体ほぐし」の方法は、読者がそれぞれ自分なりに生み出せばいいことなのであろう。
わたしの場合は15分なりとも午睡をとると、不思議なほど頭と体がすっきりし、後の作業効率も上がる。
午睡できないまでも、しばし瞑目し、ゆったりした呼吸をくり返していると、しだいにリラックスしてくるのを感じる。
犬養さんも「3分、外に出て伸びをする」「5分、横になる」を例として挙げている。
また、「名優や指揮者や大手術をひかえる外科医等で、『呼吸をととのえ』食事について『ある節制』(規則正しい食事、バランスのとれた食事、腹7分目など)をしない者はいない」とも述べている。
その場の体ほぐしだけでなく、日頃から心身の手入れをしておくことも必要なのだ。
わたしについて言えば、日頃からの ‘酒の節制’ が必要なことは、自分で分かっている。
台風5号が去って、夕方、東の空に虹がかかりました。
風雨去り 猛暑予知する 真夏虹(まなつにじ)