濱田 岳扮する便利屋が腹を減らしてカレーライス食べたいなーなんて言って食べるふりをしてみせるシーンを前フリにして、「陸軍」のラストのことを喋りだして、それが実際の抜粋映像になる工夫がいい。名前がわからない文字通り「名もない」観客代表のイメージとして出色の出来。
それがさらに木下の「破れ太鼓」で阪妻がカレーライスを食べる名シーンにつながり、さらに「野菊の如き君なりき」で主人公ふたりが夕日に手を合わせるシーンも朝日に変えて巧みに組み込んでいて、作者が本気で木下作品をレスペクトし研究しているのがわかる。
ラストで木下作品の抜粋がずらっと並ぶわけだが、その中で晩年の作品の中から「新・喜びも悲しみも幾年月」を抜き出してきて、大原麗子の母親が息子が乗っている海上自衛隊の艦隊を見送って「戦争に行く船でなくて、本当に良かった」というのも全体のモチーフにつながってくる。
欲をいうと、戦時中の軍国主義的な雰囲気はあまり出ていない、というより木下が嫌ったものは避けている感じ。
加瀬亮は一見ひょろっとした外観に相当頑固な芯がある感じを良く出した。
「陸軍」という映画全体はもちろん軍国調の国策的なシーンが大半を占めるわけだが、ラストで母親が出征する息子を追いかける長いシーンでそれまでのテーマをひっくり返してしまう、そのラストだけ抜き出してくると母親に対する思いという点では一貫するけれど、映画の中に抱え込んだ国策に従うのと反発するのと同居した葛藤は見えにくくなる。
ただ、病人を運ぶのにバスとリヤカーとどっちが大変なのだろう、とちょっと思ってしまって、欲をいうと当時のバスがどんな状態だったのか、木炭エンジン積んだバスだとちっともエンジンがかからないとかものすごく遅いとか一酸化炭素が出て大変とか知らせておく必要あったと思う。
大杉漣扮する城戸四郎が最初にちょっと出てくるけれど、城戸だったらこういう話の転がり始めにもっとうるさく言ったのではないか、と勝手に思った。
(☆☆☆★★)


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