prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「愛情萬歳」

2020年10月26日 | 映画
始まってから、一向にセリフが聞こえてこない。最初のセリフが聞こえてくるまで(それも味もそっけもない仕事上の連絡事項だ)に23分かかる。

物語るのは、むしろカッカッと響くヒールの音であり、人物そのものであるより、その周囲の空間を満たした空気、カットとカットの間、それらを総合化した一種の磁場だろう。

キャラクター同士が絡んで葛藤するいわゆる近代劇的ドラマはほぼ完全に排除されている。

映画的文体と表現を果敢に挑んだ若さに満ちた一篇。