是枝裕和総指揮によるオムニバス「十年 ten years japan」の五本の短編のうち一本を同じ早坂千絵監督が膨らませて長編にした一作。
元の短編も見ているはずなのだが、正直さっぱり覚えていなかった。
オムニバス版を見たときの感想はこれだが、今の日本が未来に希望が持てるような状態ではないのは当然として、五篇すべてディストピア的な内容なのには、正直辟易した。
なお「十年」プロジェクトには香港版、タイ版もあるのだが、香港版など十年の間に想像よりはるかに悪化しただろう。
誰かがツイッター上で、なんでオーウェルのエゴピーネンみたいなのばかりなのだ、何より人間の感情が描かれてないと批判していたが、かなり同調したくなる。
とはいえ、長編化した、というより倍賞千恵子を主演に迎えたことで、自ら安楽死を選ぶ老人の日常生活やある種の諦観、さらに逍遙として死を迎えられるのかと思うとその先があるといった感情の揺れは出てはいる。
約50年前の1973年公開の「ソイレント·グリーン」では人口爆発のため新しい食料の調達と共に安楽死が認められて、エドワード·G·ロビンソンがベートーヴェンの「田園」を聞き美しい自然の映像を見ながら安らかに死ぬのだが、ここではそういう作られた安楽もなく、ひたすらお役所仕事として役人の側から描いて、役人も人間で感情に流されるところがあるのが新味。
ただ、もともとすっきりした結論が出せるモチーフではないだけに、全体に淡白でありすぎ、なんともいえないモヤモヤは残る。