prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ある結婚の風景」(2021年HBO版)

2022年07月24日 | 映画
1973年のイングマール・ベルイマン製作・脚本・監督、リヴ・ウルマン、エルランド・ヨセフソン主演によるスウェーデンの全六話4時間43分のテレビシリーズ(翌年、2時間49分に再編集された劇場版も公開)を、ジェシカ・チャスティン、オスカー・アイザック主演でアメリカHBOでリメイク。全五話で4時間46分だから、ほとんどフォーマットは同じ。

こういう夫婦、あるいは男女で徹底的にコトバを交わすしつっこさとスタミナは日本の風土ではほぼ見られない。
オリジナルについて、佐藤忠男は言葉を武器にしたヴァイオレンス・アクションと形容した。
また東陽一は、日本のドラマのダイアローグはえてして表面をひっかくだけか、あるいは完全に関係を切ってしまう、それを言っちゃおしまいかだが、このドラマはちょっとづつ互いに傷つけ合いながら、しかし深いところの絆は離さないでどこまで言い合えるか試しているみたいと評した。

こういうオリジナルの美点は時代や国を変えても両演技者の力量ともどもほぼ受け継がれた。
監督はイスラエル出身のハガイ・レヴィ。強いて演出タッチは真似ていない(真似できるものでもないし)。

各エピソードの最初の方で撮影風景そのものからカチンコ(ボード)が鳴ってドラマが始まるという技法を使っているけれど、意識したのかどうなのか、やはりベルイマンの「狼の時刻」でやっていること。

主役ふたりが共に製作総指揮executive producerに名を連ねている。さらにイングマールの息子ダニエル・ベルイマンDaniel Bergmanの名前もある。幼児の頃を父親が撮ったホームムービー「ダニエル」というのもあるし、タルコフスキーの「サクリファイス」では助監督、自らの監督作「日曜日のピュ」もある。

第二話で不倫したのを告白するのが夫ではなく妻になったり、有色人種の出演者がいたり、第五話でオリジナルでは夫が一方的に暴力をふるうのだが、今回は妻がやり返す、とかあからさまなセックスシーンが入ったりしたといった細かい違いはある。

オリジナルでは長いことまったく愛のない結婚生活を送ってきた老婦人が、弁護士のウルマンのところを訪れてこのまま無理に結婚生活を続けたら、生きている感覚そのものが磨滅してしまうかもしれないと言って、そこにテーブルに置かれた老婦人の手のアップが入るのがベルイマンにしかできない強烈な表現だったが、そこは強いて真似せず、夫の母親が夫を失った後の述懐に替えている。

親や子供といった周囲の人物の出番も増えた。というか、ある程度描きこむのが普通で、オリジナルのようにほとんど二人っきりの芝居で通す方が珍しい。

日本語吹き替え版は、実生活でも夫婦である山路和弘と朴璐美が演じる、 というのか一種の売りでもある