prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ソラニン」

2010年05月16日 | 映画
若い人が働くのにおよそ喜びがなく、将来に希望の持てない感じとかはまあわかるけれど、それに反発するでもなく押しつぶされるでもなく、妙に明るくさばいているのは今風。

交通事故起こしたのに、道路で酔っ払って横になったみたいに大の字はないでしょ。

肝腎の「ソラニン」の演奏シーンがショボいだけでなく、歌に回想がナレーションつきで割り込んでくるのだから興醒めもいいとこ。
全体に回想の入れ方がぼうっとしていて、メリハリが効かない。

宮崎あおいはスクリーンでじっくり見ると、ほとんど紙人形みたいな体型。
(☆☆★★★)


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ソラニン - goo 映画

「プレシャス」

2010年05月15日 | 映画
モニーク扮する母親がすさまじい。夫がこともあろうに実の娘を犯して子供を生ませたのを黙認するばかりか、娘を自分の男を奪ったライバルとして敵視し、面倒をみるどころか生活保護をもぎとってこいと酷使する。
これでアカデミー助演女優賞を獲得したわけだが、オスカーをもらったから偉いのではなく、オスカーの方でこの演技を歴史に刻み込めたのを名誉とすべき名演。
ひどさを含めた人間そのものをつかんで、「鬼母」といった男社会目線のステレオタイプを葬った。娘に対する態度とはうって変わって「お上」相手となると掌を返したように下手に出るあたり、「赤ひげ」の杉村春子ばり。

性的虐待、というのはもはやテレビドラマで取り上げられることも珍しくないモチーフだが、たいてい虐待する側の人ぶりをドラマを支える底板にしている のに対して、水が入ってくるのを恐れずその板を破った。

全般に完全に女たちのドラマで、悲惨さの一番の元凶である父親がすでにエイズで亡くなっているという設定もあって、男はまるで影が薄い。

まったくの素人だったというプレシャス役のガボレイ・シティベ(朝青龍を黒くしたみたい)をはじめ、コメディエンヌから、ミュージシャンから、出自の違うキャストをまとめ、クラスのひとりひとりに至るまで目が行き届いたアンサンブル演技を生んだ演出は見事。

マライア・キャリーが知らないで見たら絶対にわからないスッピンで福祉局員を演じていたり、オプラ・ウィンフリーが製作総指揮をつとめたりと、アメリカのセレブは、一方でその地位と力を社会に還元するのを求められるし、実行もしているみたい。
(☆☆☆★★★)


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プレシャス - goo 映画

「少年と砂漠のカフェ」

2010年05月14日 | 映画

イラクのカフェ(ガソリンスタンドも兼ねたわけあり人間のたまり場)で働いているアフガン出身の少年が主人公。どういう経緯で来たのか、亡命というより国連の斡旋で避難してきたらしいのだが、極端にセリフが少なく、説明を排し外面を写し取ることに徹したスタイルで綴られるので、なかなか全体像として何をしているのかつかみにくい。

しきりと鍛冶屋が何か叩いているので何かと思うとひどく歪んだ釘で、なんで釘など作っているのかと思うと、ずっと後になって封鎖された道路を通れないように少年の手でばら撒かれる、という具合に、描写のひとつひとつが独立していて、そう簡単につながらない。
それが緊張感に結びついている場合と、よくわからないで退屈するところと両方。

背景になっている国際情勢の複雑がよく理解できないせいもあるだろうが、わかってもそれほど違わないだろう。
(☆☆☆★)

アメリカ映画ベスト100 10周年版~AFI選出~

2010年05月13日 | 映画
気になったのは、「スター・ウォーズ」に関するハリソン・フォードのインタビューの字幕翻訳で「かつてないCG」なんて表現が出てきたこと。原語では単にspecial effectと言っている。もちろん「スター・ウォーズ」第一作が出てきた時はまだCGは実用化されていない。なんでこんなバカな訳をする。

ピーター・ボクダノヴィッチが「めまい」について話しているのが皮肉。殺された恋人の妹を引き取って育て、姉に似せて整形させてから結婚した人ですからね。映画の内容を地でいっている。

100本の選出は↓

http://connect.afi.com/site/PageNavigator/micro_take_tour2

【監督】ゲイリー・スミス                
                              
                          【出演】
                        ハル・ベリー
                     ジェーン・フォンダ
                    ジョディ・フォスター
                    ダスティン・ホフマン
                       ライザ・ミネリ
                    ピーター・オトゥール
                     ジュリア・ロバーツ
                   マーティン・スコセッシ
                     ケビン・スペイシー
                 スティーブン・スピルバーグ
                     シャロン・ストーン
                              
  ~2007年 アメリカ AFI制作~          
                              
                              
【製作総指揮】ゲイリー・スミス               
【製作】ダン・ネッター                   
【司会】モーガン・フリーマン                
【原題】AFI’S 100 YEARS 100 MOVIES
      10TH ANNIVERSARY EDITION



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「17歳の肖像」

2010年05月12日 | 映画
まじめで成績のいい女の子が、まじめだからこそこれから待っていそうな人生のつまらなさにあらかじめうんざりして、一見人生の楽しみを知っていそうな年上の男に刹那的に走る感じが良く出ている。

もっとも、一方で16~17歳というには年くって見え(演じたキャリー・マリガンは22歳)、年上の男も安っぽさが透けて見える分、ヒロインまで安く見える。

エマ・トンプソンがキリストがユダヤ人というのは「そういう説を唱える人がいる」と突っぱねる校長役をひややかに演じている。こういう人間がいるから大人になるのがいやになるわけね。
(☆☆☆★)


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17歳の肖像 - goo 映画

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「ブラックボード - 背負う人 -」

2010年05月11日 | 映画
ブラックボード - 背負う人 - [DVD]

ハピネット・ピクチャーズ

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イラン・イラク国境付近を黒板を背負って、教える生徒を探して回る教師たち(といっても、学校には二年しか行ってなかったりする。日本にかつてあった代用教員みたいなの)の姿が、羽を広げた鳥とも幅広の凧とも見え、荒涼とした背景のリアリズムとはまた別の寓話性を感じさせる。
何も重たい思いをして黒板を運ばなくても、現地で調達するか、地面にでも描けばいいのだから。

果たせるかな、上空の爆撃機(にせよ、歩兵にせよ、姿は見せずもっぱら音として表現される)を怖れ、黒板のままでは目立つ、というので土を塗ってカムフラージュすると、予め描かれた文字や数字が文字通り「埋もれてしまう」図になる。

密輸品の運び屋として使われていたりする子供たちにとっては、教育の行商などまるでお呼びではない。それに対し、しつこく教えさせろと迫り続け、子供たちがまたしつこくいらないと言い続ける。押し問答というより平行線の主張を、両方ともその話のすれ違いにいらだつ様子でもなく平然とえんえん繰り返し続けるのが、途上国の物売りの付きまとい方みたいで、教師たちを描きながら上から目線などかけらもない。無力なのは女子供と老人と同様。

貧困と悲惨を今更ながら悲憤慷慨してみせるのではなく、感情が摩滅しながらなお滅びていないさまを見せていくとでもいうか。

黒板は難民の老人を運ぶ担架代わりにもなり、女性と結婚話をする時に直接顔を顔を合わさないためのついたてにもなる。ちょっと舞台劇的な小道具の使いまわしぶりが面白い。
(☆☆☆★★★)


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ブラックボード-背負う人-(2000) - goo 映画

「愛のむきだし」

2010年05月10日 | 映画

宗教と変態と愛についての四時間になんなんとする大作。
主人公がどう変態かというと盗撮マニアなのだが、同性愛とかと違って「合意の上」で成り立つわけではない、人それぞれの趣味だからでは済まされない性向なのが微妙にひっかかる。
だから、宗教と対決もできるというわけなのかもしれないが。

主演二人は捨て身の熱演。

(☆☆☆★★)


「たぶん悪魔が」

2010年05月09日 | 映画

上流階級の秀才青年が自殺したという新聞記事から始まり、すぐそれが他殺だと修正報道される。
それから六ヶ月前に遡って、どう彼が過ごしたか描かれる。ルイ・マルの「鬼火」同様、死ぬことが決まっている追青年の目に世界がどう映ったか、を追体験する構成になっている。

実質的に自殺なのに、人に頼んで殺させるのはキリスト教的というか、殺す側の荒廃が生々しい。

それにしても、フランスの青年は良い家の出でも、格好はオシャレじゃないね。

環境破壊のフィルムを見るシーン(水俣の映像も出てくる)がかなり多いのだが、アザラシを撲殺するあたりは一瞬なんかひっかかる。

ブレッソンの文体は相変わらず、という以上につき詰めたものだが、今ではかなり共有されてきたように思える世紀末感覚の始まりといった感じ。

それにしても、ブレッソン作品の主演女優はタイプがいつも共通していて、必ずうなじが丹念に撮られる。



「マイレージ、マイライフ」

2010年05月08日 | 映画
ジョージ・クルーニーの主人公は家を持たず、一年のほとんどを雲の上にいて、あらゆるしがらみから超然として生きているようで、クルーニーが未だに独身なのとも併せてリストラを宣告するのにきちんと直接顔を合わせて言う主義なところを見ると、そうそう人間を避けているわけではない。

だけど、リストラされる側にしてみれば、いくら「人間的」に首を切られたといっても、そうそう、というより絶対納得しないだろうなと思うが、そっちはオミットしている。
それを描けというのはないものねだりだろうけれど。

台詞で「旅の戦士」と訳されていたのはroad warrierって言ってますね。「マッドマックス2」のアメリカ公開題名か、プロレスのタッグチームか。
(☆☆☆★★)


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マイレージ、マイライフ - goo 映画

「タイタンの戦い」

2010年05月01日 | 映画
ギリシャの神々というのがキリスト教以前だからか、まあおよそ神々しくない、人間くさいといおうか煩悩の塊といおうか、まことに自分勝手なのに呆れる。
主人公ペルセウスは半分神・半分人間なのでその神の部分を見込まれて冒険の旅に出るわけだが、当人はもっぱら人間として生きようとするのが、「実は選ばれた存在でした」式の安直なファンタジーとは違ったところ。
もっとも超能力がある以外神と人間のどこが違うのかわからないので、人間であることにこだわったところで「人間性」を重視していることにはならない。

特殊効果はオリジナルのハリーハウゼンの名人芸とはまるで別の次元に行ってますね。もっとも、今思うと、当時のハリーハウゼンはキャラクターが擬人化する方向に行っていて、空想を広げる力は落ちていたと思う。大量生産が手作りよりうまい、ということはままある。あいにくと。

神々の王ゼウスがリーアム・ニーソンで、冥界の王ハデスがレイフ・ファインズって、「シンドラーのリスト」の組み合わせじゃないの。
生贄になりそうになる王女アンドロメダが、いささかとうが立っているのが興ざめ。
(☆☆☆)


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