耳男はヒダの職人。耳が兎のように長く大きい。顔相は馬そっくり。親方はヒダ随一の名人だと言われた。その親方が夜長の長者に招かれたが、死期が近かったため、代わりに行くことになった。長者の娘である夜長姫のために仏像を作れという依頼だ。呼ばれたのは耳男の他に青ガサとフル釜(実際に来たのは息子の小釜)。姫の気に入った仏像を作った者には、遠い国から連れてきた美しい機織り女のエナコ(江奈古)を褒美に与えるという。
しかし耳男には、姫が気に入るような仏像をつくる気はなかった。恐ろしい馬の顔の化け物をつくる決心をしていたのだ。嘲りの視線でエナコを視たが、事件が起きる。少々の舌戦の後、エナコが馬男の片耳を持っていた懐剣でそぎ落としたのだ。
何日かの後、耳男は長者に呼び出される。ヒダからよんだ職人の片耳をそぎ落としたことはヒダのタクミ一同やヒダの国人に申し訳が立たないと、耳男の斧でエナコの首を打てと言うのだ。しかし耳男はエナコに耳を切り落とされたことが虫ケラにかまれたようだといって、エナコを殺さなかった。しかしエナコは、姫に与えられた懐剣で耳男のもう一つの耳もそぎ落としてしまう。もうむちゃくくちゃだ。エナコはサイコな人間だったのだろうか。
しかし一番サイコなのは夜長姫だ。なにしろ、疫病で人々が死ぬのを喜々として見ていたのだから。
耳男は、化け物の像をつくるために蛇を捕まえ、生き血を飲んだり、像にぶちまけたり、蛇を天井から吊るしたりしていたのだ。耳男の小屋は、無数の蛇の骨がぶら下がっていたのだが、それを見ても喜ぶ始末。
耽美なテイストの作品だが、読む人によっては苦手かもしれない。その意味で読み手を選ぶ作品だろう。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。