![]() | 秘密の京都 (新潮文庫) |
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新潮社 |
生粋の京都人である、入江敦彦氏による京都散歩案内、「秘密の京都」(新潮文庫)。
私は、学生時代の6年間は、住民票登録もちゃんと行っていた正式の京都市民だったし、社会人になってからも何度も京都を訪れている。しかし、それでも京都からは、まだ知らない興味深いことがいくらでも湧いてくるようだ。
それでは、生まれながらの京都人なら、京都のことを隅々まで知っているかというと案外そうでもないようだ。著者によれば、基本的に京都人は京都に詳しいが、その知識は、散歩する範囲にかぎられることも多いという。しかし、本書では、他の人より散歩の範囲が少し広いと言う著者が、京都の主要な部分をほぼカバーして、散歩をする際の立ち寄りところを案内してくれる。
著者が、立ち寄りどころを紹介するときの蘊蓄がなかなか興味深い。例えば、京都には、通称寺と呼ばれるものが多い。これが寺社の正式名称を言うと、近所の住人でも分からないらしいので、蛸薬師とか蚕の社と呼ばなければならないのだ。その数がなんと百十数箇所もあり、宗派を越えてそ連合した「通称寺の会」を作っていると言う。いかにも京都らしい現象ではないか。また、有名な化野念仏寺の石仏群は、明治36年に、近隣から出土したものを集めて作られた、比較的新しいものだということも、本書を読んで初めて知った。
本書では、洛北、洛西、洛中、洛東、洛南に分けて、散歩中に見逃せないものが、歴史や言い伝えなどに関する蘊蓄と共に紹介されている。これらを読むと、まだまだ京都には未知のことが多いと言うことを実感してしまう。
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※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。