主人公は、榎木むすぶという高校1年生の少年。彼には不思議な力がある。本の声が聞こえるのである。
舞台は聖条学園。そう野村美月さんの代表作ともいえる「文学少女シリーズ」の舞台ともなった学園だ。そのシリーズの重要人物で学園理事長の孫娘、文学少女シリーズのヒロイン天野遠子の友人でもある姫倉麻貴の長男である悠人(はると)が3年生に在籍しており、むすぶとも親しい。また、このシリーズでは、麻貴は学園の理事長になっている。つまり、この物語は「文学少女」より少し後の時代の話なのである。
むすぶは、その力を使って、学園の様々な事件を解決していくのだが、本をモチーフにしているのは「文学少女」と同じである。収録されているのは次の5編だが、このうち「異世界湯けむり☆うふふ大戦」だけは架空のラノベで他はいわゆる名作文学が取り上げられている。
〇「長くつ下のピッピ」の幸せな幸せな日
駅の貸本からめぐるがハナちゃんのところに連れて行って欲しいと頼まれる。
〇「異世界湯けむり☆うふふ大戦」の緊急で重要なお願い
駅ビルの大型書店の新刊コーナーで、「異世界湯けむり☆うふふ大戦」の作者と出会う。彼は売れない作家で、なんとか続編を出したいと思っていた。
〇逆さまから見た、誰も知らない本
むすぶと同級生の若迫くんが、急に変になった。どうも本に罹患したらしい。その本とはなにか。ちなみに本に罹患するとは、本の世界に入り込みすぎるという病のことだ。
〇「十五少年漂流記」のやんちゃすぎる夏休み
町の図書館で出会った「十五少年漂流記」は冒険をしたいと言う。その話を悠人にすると、無人島へ行くことになる。なぜか若迫くんも同行して。
〇「外科室」の一途
町の小さな図書館に、いつも「外科室」を借りる成年がいた。「外科室」とは泉鏡花の作品で伯爵夫人と高峰という医学士の禁じられた恋心を描いたものだ。
むすぶの恋人は、夜長姫である。夜長姫というのは、坂口安吾の作品「夜長姫と耳男」に出てくる人物である。そう本が恋人という表現は、よく使われるが、むすぶの場合は本当に本が恋人なのである。安吾の作品に出てくる夜長姫は耽美で冷酷で残酷な性格だ。こちらの夜長姫は、嫉妬深く口癖は「呪う」なのだが、それで何か悪いことが起きたことはないようだ。それにどこかかわいらしいのである。
むすぶと夜長姫との出会いなど、まだわからないことも多いが、だんだん明らかになっていくのだろうか。
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