曇り、21度、71%
家人が東京に出張に行くと、帰りに成田で、千葉県産の野菜を買って来てくれます。今回も段ボールに一杯です。春菊、トマト、サツマイモ、やはり鮮度が違うので、すぐにいただきます。その中に一つ小さなパックが。ぎんなんです。
まだ東京に住んでいた頃のことです。我が家の近くに、今はもうない古びた遊園地がありました。その両脇は、富士見坂、ドリコノ坂と二つの坂がありました。富士見坂はその名の通り、晴れた日には富士山が見えます。もう一つのドリコノ坂、ほんとの名称かどうか知りませんが、地元の人はそう呼んでいました。ドリコノ坂は、あまり日が射さず、車もほとんど通りません。この坂の途中に大きなイチョウの木がありました。10月も半ばを過ぎると、ぎんなんが、ボッテッと音を立てて落ちてきました。誰も取って行きません。時たま通る車がひいて行くのを見るに見かねて、幼稚園児の息子を連れて、拾いにいきました。
バケツに半分ほど、拾って持ち帰ります。あの匂いです、裏庭に水を入れておいておきます。一週間ぐらいすると、果肉がすっかり溶けています。これをきれいに洗い流し、お日様に干すと、半年ぐらいは持ちました。ところが、我が家にはほんの少しお正月用に取りおいて、残りを全部、家人の実家に送りました。福岡だって、ぎんなんはたくさんとれます。義父が大のぎんなん好きです。火鉢であぶって食べるぎんなん。そんな義父に、私の息子、つまり孫が拾ったぎんなんを食べてほしかったからでした。それに、ドリコの坂のぎんなんは、ほんとに大きかったのです。何年か続いた我が家の行事でした。
もちろん香港にもぎんなんはあります。乾物屋で、日本と同じように売っています。ところが、イチョウの木は見たことがありません。家人が買って来てくれたぎんなん、ちょっと小振りです。しかも匂いが強い。それもそのはず、
一つに、まだ果肉が乾いてついていました。このぎんなん、来年のおせちに使います。きっと、家人の実家では、90になった義父と義母が火鉢を挟んで、今年もぎんなんを食べていることでしょう。