大雨、29度、79% 雷注意報
私が小学校の頃ですから、昭和30年代後半もしくは40年代前半のことでした。四国の山道を母と歩いていました、白い砂埃が舞うような道です。車の音が微かに聞こえると、前を歩く母が手を挙げました。すると後ろから来たバスは私たちの横で留りました。福岡の市内で育った私は、バス停にいれば、バスが来て留るものだと思っていました。母が手を挙げて留めたバスがどんなバスだったか、なぜそんな山道を歩いていたかも忘れているのに、前を歩く母が手を挙げた姿だけは未だに記憶にあります。
香港に来た当初、一番戸惑ったのが乗り物です。香港島にいますので、二階建てのトラム(路面電車)、バス、地下鉄、タクシー、フェリー何でもありました。黙って切符を買ってのればいい地下鉄なんかはさして難しくありませんが、とりわけ困難なのがバスでした。
まず、種類が豊富です。二階建てバス、普通のバス、当時は14人乗りだったミニバスが緑の屋根と赤い屋根の二種類あります。まだ、言葉がわからない頃ですから、人の真似をするしかありません。バス停でバスを待っていました。乗りたい二階建てバスがやって来ました。バスはバス停に留りもせずに、行ってしまいました。さあ、これを何回繰り返したでしょうか?そのうちに、手を挙げるとバスが留ることを見て覚えました。バス停にいても手を上げてバスを留めるのが香港式です。これは、どのバスでも同じ事、ただ赤い屋根のミニバスだけは、イエローライン以外の場所なら、どこで手を挙げても留ってくれます。
もう20数年香港に住んでいますので、意識もせずにバスに手を挙げています。昨日、久しぶりにバスに乗りました。バスに乗って、ボーッと外を眺めていると、次のバス停で、若い女性が手を挙げてバスを留めるのを見ました。みんながしてる普通の行為なのに、どうしたことか目に留りました。なぜでしょね。白い手がすっと上に上がって、バスに合図を送るのです。
この私、日本に帰ってもバス停でバスが来ると手を挙げてしまいます。周りの方は少しきょとんとしていますが、日本ですから、皆さん素知らぬ振り。目ざといタクシーが留ることもあります。
香港に観光でみえたら、決まって乗るバスは観光用の大型バスです。あの大型バスから、町を見るとたくさんのバスが走っているのが見えるはずです。勇気を出して、手を挙げて普通のバスに乗ってみませんか?バスの中もバスの外も、観光バスでは見られないものが一杯詰まっているはずです。ほんのちょっと、勇気を出して手を挙げるだけ。