『親愛なる君へ』(原題:親愛的房客)
監督:チェン・ヨウジエ
出演:モー・ズーイー,ヤオ・チュエンヤオ,チェン・シューファン,バイ・ルンイン,ジェイ・シー,
シエ・チョンシュアン,ウー・ポンフォン,シェン・ウェイニエン,ワン・カーユエン他
『キネマの神様』にちぃとも感動できず、悶々としながら迎えた翌朝。
夏の恒例、全館節電のための半ば強制的に有休を取らされる日。
面白い映画が観たくて4本ハシゴを計画。
まずはシネマート心斎橋で台湾の作品を鑑賞。
第57回台湾アカデミー賞(金馬奨)で主演男優賞を含む3冠に輝いた作品です。
『キネマの神様』ではまったく泣けませんでしたが、これは泣きました。
9歳の少年ワン・ヨウイーとその祖母シウユーが暮らすマンション。
屋上を間借りしている男性リン・ジエンイーがワン家の家事をすべておこない、
糖尿病を患うシウユーのことも献身的に介護していた。
ある日、シウユーが急死。シウユーの次男で上海在住のリーガンが駆けつける。
もともと母親のマンションを売りたいと考えていたリーガンは、
相続人としてヨウイーが指定されていることを知り、
ジエンイーが遺産目当てにワン家に近づいてシウユーを殺害したのではと考える。
リーガンが「おばあちゃんは本当に病死だったのか」と尋ねると、
ヨウイーは首を振ったり振らなかったり。
ますます怪しいと、リーガンは警察に通報するのだが……。
シウユーの長男=ヨウイーの父親リーウェイは、ジエンイーのパートナーでした。
リーウェイの死後、彼の母親と息子の世話をする義務なんてジエンイーにはなかったのに、
彼はマンションの屋上から去ることなく、ワン家の面倒を見続けます。
リーウェイはジエンイーに殺されたようなものだと最初は冷たかったシウユーが、
病床で「あんたは本当にいい男だ。息子が惚れたのもわかる」というシーンにまず涙。
シウユーはそれ以降も基本的には意地悪ばあさんなんですけどね(笑)。
シウユーの勧めでヨウイーを正式に養子にしたジエンイー。
殺人の容疑をかけられて取り調べを受けたとき、
「なぜリーウェイが亡くなった後も母親と息子の世話をしているのか」と問われ、
「もしも僕が女だったら、同じ質問をしますか」と逆に尋ねるのが印象的。
ヨウイーが誰よりも献身的で、ヨウイーのことを愛しているのは一目瞭然なのに、
男だから、ゲイだからというだけで、家に残るのはほかに魂胆があるからだと言われる。
そればかりか、ヨウイーを性的に虐待していることまで疑われる。理不尽です。
これほどまでに理不尽な扱いを受けていながら、投げ出したりしない。
でもヨウイーにはなかなか真実を打ち明けられない。
薄々わかっているヨウイーが「どうして本当のことを言ってくれないの」というシーンもまた涙。
ジエンイーは本当にシウユーを殺したのかというミステリーにもなっています。
なんとなく読める展開ではありますが、その事実にも胸を衝かれる。
このさき生きていれば、悲しいこと、悔しいことがいっぱいある。
でもそのときに思い出して。君はまったく悪くない。