『ビヨンド・ユートピア 脱北』(英題:Beyond Utopia)
監督:マドレーヌ・ギャヴィン
TOHOシネマズなんば本館で前述の『大室家 dear sisters』を観てから別館に移動しました。
さまざまな劇場で上映されているのは知っていましたが、明るい話ではないのは確実で先送りに。
そろそろ上映終了だなと思っていたとき、毎日新聞の紹介記事を目にしました。
公開中と書いてあるけど、その2日後には大阪での上映はどこも終了よ。
んじゃ観に行かねばなるまいと思ったのでした。
記事の効果なのか、上映最終日に結構な客の入り。もしかしたら続映になるかも。
(→この後ほかのニュース番組でも取り上げられ、再上映する劇場が出ています。)
シネコンで上映されるのは珍しい、脱北者に密着したドキュメンタリー。
脱北者のその後を描いたフィクションなどはこれまでにもありましたが、
北朝鮮からの脱出劇をリアルタイムで記録したドキュメンタリーはこれまでにないでしょう。
そもそもそんな状況を撮影するのが可能とは思えない。でも実現したんだ。
毎日新聞の記事によれば、脱北者を支援する韓国在住のキム・ソンウン牧師のもとへ、
ある日、アメリカの映画監督マドレーヌ・ギャヴィンから連絡があり、
脱北者のドキュメンタリーを撮りたい旨を伝えられたそうです。
冗談じゃない、撮影隊と共に脱北に同行するなんて、捕まえてくれと言っているようなものだと断ります。
そらそうです、殺されてしまうかもしれないのですから。
ところがギャヴィン監督はあきらめない。
韓国までやってきて、撮影はすべてキム牧師の指示に従うという。
それを聞いたキム牧師は、このドキュメンタリーを撮ることで脱北の必要を世界に知らしめることができ、
脱北者の何か役に立つならばと引き受けたそうです。
脱北を決意した5人家族には幼い子ども2人と80代のおばあちゃんが含まれています。
この家族がキム牧師率いる支援組織の協力を得て過酷な脱出作戦に臨むのですが、その行程約1万2千キロ。
脱北を図ると、北朝鮮国内ではなく中国に入った瞬間に捕まることが多い。
強制送還され、死ぬまで厳しい拷問を受けることになる。
北朝鮮から中国へ入国済みだったその家族は、そこからベトナム、ラオスを経由してタイへ。
最終的には亡命先の韓国を目指します。
ぞろぞろと撮影隊を引き連れて移動するわけにはいかず、スマホのみによる撮影のときが大半。
ジャングルを10時間も歩くなど、本当に過酷。
しかも、ブローカーがいい人ばかりではないから、同じところをぐるぐる回らせて金を釣り上げられるなんて場合も。
80にもなって祖国を出ることになったおばあちゃん。
彼女も勿論のこと、生まれたときから洗脳されている子どもたちは、将軍様は素晴らしい方だと思っています。
世界中が北朝鮮と同じような状況で、その中で北朝鮮はいちばん裕福で幸せだと思い込んでいる。
糞尿を肥料にするために、すべて袋や箱に詰めて学校や会社に持って行き、それを農家が引き取りに来る話など衝撃的。
動物のじゃないですよ、人間の糞尿ですよ。
北朝鮮で聖書を読むことが禁じられているのは、国民を騙していることがバレるから。
全国民を洗脳し、騙しつづけていられることには驚きます。
この家族は亡命に成功しましたが、ニュース番組でも取り上げられていたように、
息子を脱北させられなかった女性にも同時に取材しています。
自身は先に脱北していて、念入りな計画後に息子を韓国へ来させようと思ったら失敗。
息子は政治犯の収容所に送り込まれ、今は生きているかどうかもわからない。
こんな国でも祖国は祖国。
何も知らないまま自分たちは恵まれていると思って過ごすほうが幸せだったのか。
脱北して今はもう自分の国がどんな国であったのかわかっているけれど、それでも故郷を思う気持ちが切ないです。