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読書 マイクル・クライトン「恐怖の存在」

2006-07-20 11:37:08 | 読書
  上下巻併せて800頁に及ぶ絢爛たるクライトン節とでもいうべきメッセージが事細かに語られる。
 あるときは、どこかの教室で講義を受けている錯覚を覚えることもある。もちろんエンタテイメントもサービスされている。

 アメリカ環境資源基金という環境保護団体は、大富豪のジョージ・モートンの資金援助が欠かせないが、団体内部で不正が行われているのを知ったモートンが、理事長のニコラス・ドレイクを糾弾する。
 ドレイクはモートンに脅しをかけるが、モートンは真剣に受け止め身の安全のため、ある計画を実行する。

 モートンの顧問弁護士ピーター・エヴァンス、モートンの秘書サラ・ジョーンズ、MIT危機分析センターの所長で教授のジョン・ケナー、その助手ネパール軍人のサンジョン・タバたちが、南極、アリゾナの砂漠、ソロモン諸島で多くの危機を乗り越えていく。

 危機を作り出しているのは、ドレイクたちの環境保護団体が世界にアピールするための環境テロを画策しているためだった。その環境テロというのは、地球温暖化による危機を作るもので、南極の氷床の大規模な破壊。嵐による洪水の氾濫。ソロモン諸島で海底なだれを起こし大津波がアメリカ西海岸を襲う。

 この計画を阻止するため、ケナーやエヴァンスがあらゆる知力を振り絞る。クライトンは三年間にわたり環境問題の関連書を大量に読み、大量のデータに触れ、さまざまな見解を得たという。それを基にこの本は書かれているそうだ。

 地球温暖化は一つの仮説として示されていて、この温暖化に関連して、アメリカは京都議定書に批准しなかった。なぜ拒否したのかよく分からなかった。
 そこでインターネット検索の結果、名古屋大学の武田邦彦教授のホーム・ページによると、1)京都議定書は先進国だけに義務を負わせているが、地球温暖化は開発途上国からの二酸化炭素も大きな影響があるので実効性に乏しい。2)排出権取引など実質的に二酸化炭素を減らさなくても目的を達成することが出来るので、「骨抜き規制」になっている。3)ロシアやイギリスが賛成するような条約を結ぶタイミングではない。(この3は、HPに説明がありますので見ていただければと思います。Googleで「京都議定書」と入力すれば出てきます)

 国際的には「京都議定書と地球温暖化とは直接関係がない」と認識されていて、アメリカが批准しない理由になっている。この本を読んだあとでは、アメリカの拒否理由も分かる気がする。
 もっと辛辣なのは、アメリカ合衆国には、PLM、つまり政治(ポリティコ)・法曹(リーガル)・メディアなるものが存在し、それが意図的に恐怖を煽り食い物にしているというものだ。

 いずれにしても、楽しみながら環境問題に関心を移すように作られている。そこで、教科書がこんな内容であったら、子供たちは楽しく読み堅苦しい環境問題にも興味を持ってくれるのではないだろか!とふと思った。