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隆慶一郎「吉原御免状」

2009-03-09 12:45:54 | 読書

           
 肥後の山中で宮本武蔵から二天一流の剣を学び武蔵の遺言に従って、いま新吉原を眺める浅草日本堤に立っていた。涼やかな25歳の若者松永誠一郎でまだ童貞である。
 その吉原で邂逅したのは、80歳に近い幻斎と名乗る男で踊りの名手であり剣の達人だった。松永誠一郎がこの吉原でたびたび殺気を帯びた空気を感じはじめる。それでも親しくなった幻斎に「女子(おなご)の味を知らなきゃあ」と暗に筆おろし(童貞を捨てること)を勧められる。
 幻斎は筆おろしを勧める口ばかりでなく花魁の高尾との三回目の登楼の段取りまでつけてしまう。この三回目というのは、吉原では「馴染」といって夫婦になる意味らしい。したがって今回は寝所を共にすることになる。
 長い記述の誠一郎と高尾の交合の場面は、いやらしさの微塵もないまるで浮世絵絵師の北斎の春画を見るような芸術的な表現が印象的だ。
 少し引用しよう。“高尾は手をとって誠一郎を立たせると、ひざまずいてその帯を解いた。着衣を一枚一枚剥ぐと禿(かむろ、遊女の雑用をした少女)に渡してゆく。やがて誠一郎は、下帯一本の裸体で、高尾の前に立っていた。
 高尾は『着綿』(きせわたと読む。着綿の目的は、菊の花においた露をしみとらせることで、天皇の玉体(高貴な人の体の総称)を拭うのに使われる。そのしきたりを幻斎が取り入れた)を手にとり、ゆっくりと誠一郎の裸身を拭ってゆく。
 『着綿』が肌に触れると、わずかに涼しく、こそばゆい感覚がある。そのこそばゆさが、次第に快感に変わっていった。高尾が全身を拭い終えたとき、誠一郎の男はふんどしの中で膨張の極に達していた。高尾が静かにそのふんどしをとく。
 たちまちはやりたったそれが屹立し、高尾の顔の前で揺れた。高尾はいとしそうにそれに頬ずりすると『着綿』で拭い、さらに陰嚢(ふぐり)に及んだ。
 会陰(えいん)から陰嚢へと逆に拭き上げられた時、誠一郎のつま先から頭のてっぺんまで、しびれるように強烈な快感が走った。この時高尾の手が、陰嚢の根元をきつく握り締めなかったら、誠一郎は精を放っていたかもしれない”
 
これだけでもかなりぞくっとくるが、これからますます佳境に入っていく。
“高尾は誠一郎の右手を左手で柔らかく握った。誠一郎の手をそっと己の乳房に導く。誠一郎の指先で、まるで羽毛で触れるように、かすかにかすかに、乳房を、次いで乳首を、さすらせる。不意に誠一郎の指の下で、桃色の乳首が、ぴくんとふるえた。その感触に誠一郎の指先もまた、ぴくっとふるえる。乳首の大きさがわずかに増し、目に見えて硬く尖った。
 「あ」かすかな声が、高尾の口から洩れる。目は半ば閉じられている。高尾の手は、なおも誘導をやめない。桃色の割れ目から突起へと導かれていく。長い突起の中から、濃い桃色の小さな核が現れる。指先がわずかにそこに触れると、高尾の全身が大きくそり返った。
 「あ」前よりもはっきりした声で、高尾がうめいた。誠一郎の指は、小さな輪を描くようにして、少しずつ、少しずつ、奥へ導かれてゆく。異様な触感があった。 その中は熱く、ふくれていた。無数の襞(ひだ)が感じられる。その襞の一つ一つが膨れているような感触なのだ。やがて突然その襞がなくなり、滑らかな、やや広い場所に入った。同時に、指の中ほどと根元が強烈に締めつけられる。
 「ああっ」絶え入るような声が洩れたとき、誠一郎はその広い場所が痙攣するのをはっきりと感じ、同時に馥郁たる香りを嗅いだ”
 そして二人は合体してほとばしるような快感に身をゆだね、やがて強烈なオーガズムへと登りつめる。どうやらこの高尾、男が焦がれるみみず千匹という名器の持ち主のようだ。
 家康の影武者二郎三郎のお墨付き御免色里を巡って裏柳生の忍者と白刃を交え、一瞬のうちに三人を倒す剣技の持ち主誠一郎も高尾のおかげで性技にも磨きがかかった。高尾に惚れられもう一人の遊女勝山(裏柳生の女忍者)にも惚れられるという羨ましい男だ。鮮やかな剣さばきと女さばきに堪能した。